■「バ畜」生活をする学生の事情
次に労働者側だが、“バ畜”をする学生には3つの理由がありそうだ。前出の常見氏は「物価高騰」「就活対策」、そして「居場所作り」だと指摘する。
「週に何時間もアルバイトをする学生は、確かに昔からいました。ただ現代は、学費や生活費など、物価がどんどん高騰しているのに親の収入が必ずしも上がっているわけでもなく、仕送りだけでは生活が厳しい学生が増えている実情は無視できません。遊ぶお金のためというよりは、もう少し逼迫した切実さがある。
今はアプリを活用して数時間単位レベルのスポットでバイトを探すことも可能になり、詰め込もうと思えばいくらでも詰め込める環境であることも“限界バ畜”に突き進む要因かもしれません。
そして、アルバイト経験は就職活動での定番アピールポイントでもあります」
3つ目の「居場所」とは、“承認欲求”の表れでもありそうだ。
「家にも大学にも居場所がない学生にとって、アルバイトの現場は自分の存在が承認される場なんですね。“バ畜”と自虐的に言いつつ、その実は居場所があることを確認している心理があると思います」(前同)
では、なぜわざわざ学生だちは「バ畜」という自虐的な言葉を使うのか。
「自分自身を奮い立たせるような側面もあるでしょう。ただ大前提として、“社畜”という言葉を知らないとそういう言葉も出てこない。つまり、少なくとも労働に対する社会的責任を認識しているということでもありますよね。ともすれば暗い話になりがちな労働市場の中で、少しでも明るく生き抜こうとする知恵が生んだ言葉とも言えると思います」(同)
労働は人生の一部。若者としても明るく生きていくために、自虐的な言葉をあえて使っているというわけか。
常見陽平
リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年より准教授。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。