■朝倉未来に“してやられた感”の真意――「予定調和を……」

 そんな青木は、この一戦を「朝倉さんに“してやられた感”がある」と言う。その真意は何か。

「『朝倉未来』というブランドで商売をしているなかで、自分で挑戦を表明しておいて、いざやってみるとずっこけるっていうのは、競技としては負けかもしれないけど、表現者としてはさすがだな、最高だなと思いましたよ。だって、普通に朝倉さんが勝って終わったら、“ハイ、お疲れさま”で以上でも以下でもなくなっちゃうでしょ?」

 とはいえ、負けるつもりもなかったのでは……?

「もちろん朝倉さんのほうが体格がデカいし(※朝倉は177センチ、YA-MANは173センチ)、YA-MANをさばき切れるという思いはあったでしょう。むしろ、負けたいと思って負けてたら超大したもんだと思いますよ(笑)。

 実際、長く格闘技界にいて“引き”で試合を見られるようになってくると、勝ってもしょうもないなと思って、心のどこかでほんのわずか、無意識のうちに(単なる“勝ち”にはいかない)準備をしていたりもするんです」(前同)

 そんな青木は、「どうせ(どちらも倒れなくて)判定、引き分けだよねっていう予定調和感があったんじゃないか」と独自の見解を示す。

「今はすべてのコンテンツが“バカでも分かるもの”として制作されるようになっている。だから視聴者側も、勝ち負けじゃないところをどうやって楽しむかという能力が問われると思うんですよ。

 僕、自分で自分のことを変態だなと思うんですけど、YA-MANさんと朝倉さんの間で、裏ではどういうやり取りがあったのかなとか想像するのが面白い。互いにバチバチのテイを取ってるけど、もしかしたら何か暗黙の了解の予定調和があったのでは……なんてね。それをツッコんで“本当はどうだったか”なんてどっちでもいいんですよ。妄想なんだから(笑)。

 今回、朝倉さんはこちらの勝手な“予定調和”を崩した。見ている側に“想像の余白を残す”という意味で、朝倉さんは素晴らしい試合をしたなと。試合後も、視聴者側がああだこうだと“余韻”を味わうものになっているからね」

 たしかに試合はわずか77秒だったが、その後の注目度は抜群。YA-MANにはもちろん、朝倉にとっても自分史に残る一戦だったことは間違いない。

※画像は青木真也氏提供。右はケンドー・カシン

青木真也
1983年5月9日生まれ、静岡県出身。小学生時代に柔道を始め、全日本ジュニア強化選手に選抜。早稲田大学在学中に総合格闘技に転身。修斗、PRIDE、DREAM等で活躍し、修斗世界ミドル級王者、日本人初のDREAMライト級王者。
2012年からアジア最大の格闘技団体ONE Championshipに参戦、2度の世界ライト級王者。2014年からはプロレスにも参戦。17年にNEW、18年からはDDTプロレスリングに参戦、DDT EXTREME級王座、アイアンマンヘビーメタル級王座を獲得。柔術等の道場で講師として後進育成にも力を注ぐ。