■「おかえりなさい」と待っていてくれる人がいるあたたかさ
落ち込んで帰ってくると、玄関の中で天が待っていてくれるのだが、まるでご主人様の帰りを待つ愛犬のように健気でかわいらしい。「おかえりなさい」なんて、久しぶりに聞いただろう。広い家に一人で暮らして、何事もない平坦な毎日を送り、家に訪ねてくるのは不動産屋ぐらい。
そして今日は、特別に悲しくて寂しい気持ちで帰宅したのだ。笑顔で出迎えてくれる人がいることで、泣きたい気持ちがこみあげてきて、でも泣くなんてカッコ悪すぎて、どんな顔をしていいか分からない。そんな複雑な心境が表情ににじみでていて、炬太郎の切なさに泣けてくる。
岸も、バラエティ番組のトークで言葉がうまく出てこないことがある。だけど、焦って早口になっていたり、身ぶり手ぶりで言葉をつないでいるのを見ると、伝えたい気持ちが手に取るように見える。
その一生懸命さに、周囲の人が言葉を補って寄り添ってくれてあたたかい空気となり、場が和むのは、まさに「愛され岸くん」と言えるだろう。炬太郎にも、相手に伝えようとする誠実さがあれば、不器用ながらもすてきなおつきあいができたのかもしれない。
でも、もう澪央との関係は終わってしまった。やり切れない思いでいっぱいだけど、今は天がそばにいてくれる。一緒にお寿司を作って、ケーキを食べて、縁側で雄たけびをあげて、夜空を見上げたらちょっと元気になる。天と一緒にいたら、どんなにダメな日でも、天がいてくれたら、きっといい日になるだろう。(文・青石 爽)