■企業が懇親会、手紙……親へのアピール大合戦

 ネット社会の発展に伴い、親世代の間でも認知が広がるブラック企業。一方で、優良企業でありながらも知名度に欠ける新興ベンチャー企業などは、人材獲得に苦戦することも。

 前出の常見氏は「『オヤカク』を行なうのは、基本的に新興企業や地元系企業が多い」と指摘。さらに企業人事は、「子どもの就職先として、親を説得する材料を用意する」ことも大事な仕事の一つになっているのだという。

「たとえば、立ち上げたばかりの会社ですとか、成長株ではあるものの、全国的な知名度はまだまだという企業があったとしますよね。

 企業選びの観点として、事業規模ではなく“自分がやりたいこと”かどうかを重視する学生が面接に来て、”ここで働きたい”と乗り気になっている。企業側もぜひその学生がほしい。

 でも、親が地方公務員などカタイ仕事をしていたりすると、ちょっと心配されるかもしれない……というわけです。そんなときに、先回りして”うちは残業時間は月◯時間まで厳守です”とか、うちに来ればこういうスキルが身につき、こんなキャリアを描けます、など、親を安心させるような資料を人事は出すんです。自社の展示会などに親も一緒に招待するというケースも今や珍しくありません」(前同)

 そんな「オヤカク」が本格化するのは、内定受諾に向けたタイミングだとか。

「ライトな『オヤカク』だと、親宛てに《選んでいただいてありがとうございます》《活躍できると思います》といったお手紙を書いたり、その会社のリアルがわかる社内報を送ったりというやり方が一般的です。

 親と企業幹部の懇親会を開く会社もあります。ざっくばらんな会として、一つのテーブルに管理職と保護者が何人か座り、管理職が質問に答えていく。他にも、実際に子どもが働く場所としてオフィスツアーをしたりする。基本的にはすべて親を安心させるアピールですが、子どもだけでなく、その親にも自社のファンになってもらえたら儲けもの。やって損はない、という考えなのでしょう」(同)

 親の心子知らずというが、親の心をよく知っているのは、今は企業なのかもしれない。

常見陽平
リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年より准教授。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。
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