■訪日外国人が困る「流すバリエーションの豊富さ」

 インバウンド需要に沸く飲食店の懐を潤わす一方で、トイレを汚すなどの迷惑行為もあるという外国人観光客。トイレ研究家で世界トイレ協会理事でもある白倉正子さんは、「その人の育った環境のトイレ文化や習慣による影響は大きい」と指摘する。

「国によっては、ボットン便所に代表される“非水洗”トイレ文化の国も珍しくない。他にも、水の入ったプラスチック製や金属製の手桶が便器のそばにあり、自分で水を流すという方法があります。低い位置にある水道から自分で水を汲んでお尻を洗い、その後、やはり手桶の水で排泄物を流すのです。水洗トイレ以外がメジャーな地域で育つと、排泄物の除去方法が日本とは異なるというわけです」(前出の白倉氏)

 加えて日本のトイレ設備は、“流す”方法のバリエーションが多いため、その豊富さが外国人観光客には、難しいのではないかと指摘する。

「海外では、水洗トイレを流す際にレバーを回すとかセンサーで流れるといったようにバリエーションが複数あるわけでもないでしょう。

 一方、日本では、流すためのレバーがタンクの隣にあったり、和式だと奥にあったりします。またボタン式の場合でも便座の横にあったり壁にあったり……。壁に取り付けられたリモコン式のボタンの場合、流すボタンが正面ではなく、上面にあるケースも。

 そのうえ“流す”には『大』と『小』があるし、温水洗浄便座では“おしり”や“ビデ”、水の勢いや便座の温度調節、乾燥用のボタンなど、たくさんのボタンが並んでいます。それらを見慣れない外国の人にとっては、どれを押せば水が流れるのかが容易には分からない可能性は大きいと思います。

 しかも、手をかざしたらセンサーで流れたり、トイレから離れたら流れるといった非接触タイプも増え、戸惑う人は多いのではないでしょうか」(前同)

 ではトイレの流し方がわからなかった場合に店のスタッフに聞けるかというと、一度、個室から出なければならないため、それもなかなか難しい。

「結局、流し方がわからないということで、そのままにして出てしまうんですね。

 日本の水洗トイレは、使い方がわかればとても便利で衛生的なものですが、外国人には、それが裏目に出てしまい、複雑さが新しいトラブルを生んでいるのもたしかでしょう。訪日外国人の方には良く情報収集してほしいなと思いますし、ガイドブックなどにもいろいろなケースがあることを明記してほしいですよね」(同)

 TOTOが売り出す、温水便座洗浄機ウォシュレットは、その機能の便利さから”クイーン・オブ・ポップ”として知られる世界の歌姫・マドンナ(65)も、こよなく愛したという。そんな、世界に誇る日本のトイレ文化や使い方が今後、日本を訪れる外国人観光客に一刻も早く認知されることを願ってやまないが、日本サイドの準備不足もあるのだろう、問題点はまだまだ多い。

 訪日外国人が大挙して押し寄せてもトイレが美しい――その日はまだ先のことになるようだ。

白倉正子
トイレ研究家。世界トイレ協会理事、一般社団法人日本トイレ協会運営委員。
多摩大学経営情報学部卒業。卒論「トイレ空間における企業の経営戦略」を書いたことがきっかけでトイレの大切さに気が付き、トイレの専門家になろうと決意。卒業後はトイレ掃除の修行から始めて独学でトイレを学び続け、現在は世界のトイレを飛び回りながら講演・セミナーも多く手がける。
TBS『マツコの知らない世界』、日本テレビ『所ジョージ笑ってコラえて』などに出演。