■「骨を身に着けるなんて気持ち悪い」からの価値観の変化
ジュエリーの中へと遺骨を入れて持ち運ぶ『ソウルジュエリー』を販売する大野屋は、85年前に誕生した墓石の販売、施工をする会社。手元供養について前出の広報・商品企画開発部長の箱崎氏は「当初、業界には懸念もあった」と明かす。
「遺骨を納めるジュエリーは、葬祭業界発の商品ではなく2000年代半ば頃から一部の伝統工芸店やベンチャー企業で始まったものです。石材業界としては、手元供養が普及しすぎるとお墓の存在意義が失われていってしまうのではないか、という危惧がありました。
弊社はお客様にとって価値があれば新しいものを取り入れる社風だったので、オリジナルの遺骨ジュエリーを08年から2年ほど細々と作っていたのですが、なかなか販売数も伸びない。そうしたなか、本格的に遺骨ジュエリービジネスに参戦すべくスタートしたのが、ソウルジュエリーです」(箱崎氏)
コンセプトは、「魂や想い=ソウルを大切にしつつ、ジュエリーとしても通用する商品を作る」。それまではジュエリーへと遺骨を入れることを重視しすぎた結果、後回しになりがちだったデザイン面への考え方を一新した。
「大切な人を入れるからには、いつも身につけたくなるようなデザインにしないといけない。クオリティはもちろん、ジュエリーとしてのデザインも重視しました」(前同)
とはいえ販売前に行なった独自調査では、「骨を身に着けるなんて気持ち悪い」「そこまでして商売するのか」といった声もあり、販売は同社にとってもチャレンジだったという。
しかし、いざ蓋を開けると、仏間のない現代の住環境や遠方に住んでいるためお墓参りになかなか行けないといった事情を抱える現代人は多く、身近なところで故人を大切にするという価値観は今の時代にマッチしたとのこと。故人のためのものという意味合いが強い墓に対し、遺骨ジュエリーは「自分」のために購入するという需要があったようだ。
「もともとお墓や仏壇など、供養は“家”単位でするものでしたが、時代の流れとともに家の在り方が変容。供養もパーソナルなものへと移ってきています。遺骨でジュエリーというと、たしかに地方や世代によっては驚かれます。でも、いざ身近な方が亡くなると、検討する方が結構いらっしゃる」(同)
家族の墓が遠方にあるという方はもちろんのこと、購入者の中にはきょうだいで遺骨を分けて身近なところで供養したいというケースもあるという。この変化を箱崎氏はどのように受け止めているのか。
「これまではそうした選択肢がなかっただけ。お墓はお墓で用意しつつ、亡くなられた方と一緒にいたいという想いや、お守り代わりなどの目的でソウルジュエリーをご自身のために購入される方が多いです」