■“劇場版からドラマへ”に地上波の参入が難しいワケ

 ただし前出の鎮目氏は、この「”劇場版からドラマ”スタイルでのドラマ制作はあくまでも”有料”の局や配信だから成立することであり、地上波テレビ局が取り入れるのは難しいのではないか」と見る。

「もともと劇場版はR指定があるので、思い切った製作が可能です。日露戦争や狩猟シーンなどが描かれる『ゴールデンカムイ』はまさに映画向けの作品。

 ところが、地上波にはどうしてもスポンサー問題と“万人受け”という命題がつきまといます。視聴率を1%獲得するには118万人以上の視聴者を獲得しなければならない。劇場に足を運んだ118万人が全員ドラマをリアルタイムで見てようやく視聴率1%超え。これではスポンサーに顔向けができません。

 制作面でも地上波ドラマはとがった内容に触れられないし、視聴率を担保しようとして、演技力はイマイチでもなんとなく知名度のある人をキャスティングしようとする。原作についても、”テレビ的にはこっちのほうが……”という謎の理屈で手を加えることがよくあります」(前同)

 劇場版が好評でも、ドラマになると各方面への調整まみれになった結果、肝心の物語がイマイチだったでは話にならない。その点、何かと制約の多い地上波ドラマに対し、有料プラットフォームは作品制作の自由度が大きいのだ。

「ドラマも有料プラットフォームのほうがキャスティングにこだわり、原作の世界観に忠実に向き合えます。何話で納めなくてはいけないという縛りもない」(同)

 つまり内容にこだわった人気漫画であればあるほど、原作ファンに寄り添える”劇場版発の有料ドラマ”スタイルが向いているというわけだ。今後、この手法がドラマ制作のスタンダードになるのかというと――。

「確実に原作ファンを狙い撃ちできる、人気作品なら成立すると思います。ドラマを1話ずつ見るよりも、最初にある程度まとめて見せてくれたほうが話に入りやすいという人もいるでしょうしね。

 とはいえ、ドラマが放送・配信されるプラットフォームにもよるでしょう。『沈黙の艦隊』を第一の成功例として、今回『ゴールデンカムイ』を放送するWOWOWは、会員数獲得という意味ではかなりのチャレンジ。これが成功すれば、他のプラットフォームでも続くケースが出てくるかもしれません」(同)

 ひとつ言えそうなのは、劇場版が有料会員への“入会キャンペーン”だったとしても、ドラマのクオリティはファンを裏切らないものになりそうということ。WOWOWは“ゴールデンカムイチャレンジ”で、業界内に新たな金脈を示せるだろうか――。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)