今、日本で一番売れている小説家は、大御所作家でも芥川賞受賞者でもない。謎の覆面作家「雨穴」だ。雨穴(うけつ)氏の著書『変な家』『変な絵』は2023年のオリコン年間書籍ランキングで、小説としては1位と2位の売り上げを記録した。新刊『変な家2』はすでに50万部を突破している。
しかし、雨穴氏の活動形態は一般にイメージされる「小説家」とはまったく異なる。YouTubeで長編ミステリー動画をいくつもアップし、SNSではダンスや一人コントもする。また、音楽活動もしており、最近コミカライズがスタートした『変な絵』の出版時には、本をテーマにした10分を超えるオペラを自作するなど、その活動は「小説家」の枠に収まらない。
今回、本サイトは、そんな雨穴氏の素顔に迫るべくインタビューを敢行した。
※ ※
――まずはじめにお聞きしますが、雨穴さんの「本業」は何なのでしょうか?
収入面では小説が一番ですが、自分のことを「小説家」と思ったことはありません。しいて言うなら「何でも屋」でしょうか。もともとウェブライターとして活動をはじめ、その派生でSNSや動画投稿を行うようになりました。小説もその派生の一つと考えています。
――では、小説に対する思い入れはあまりない、ということですか?
もともと本は好きですし、思い入れはあります。ただ、小説に専念しようとは思いません。小説だけでは他の作家さんに勝てませんから。もともと作家を目指して努力してきた人間ではありませんし、そのため文学的な知識や素養はかなり不足していると思っています。そんな私が並み居る強豪の中で戦うには、自分が使える力をフル活用するしかありません。
――だからSNSや動画投稿を行う……と?
もちろん、好きだから色々やっている、というのは大前提です。ただ、最も自由に表現ができる媒体は小説なので、小説を買っていただくために普段から面白い作品をネットで無料公開し、信用を築くよう努力しています。
――なるほど。ネット活動で築いた信用があるからこそ、雨穴さんの小説は多くの方が手に取るのですね。
「ふだん無料で頑張ってる雨穴が作ったものなら買ってやってもいいか」と思っていただければ嬉しいな、と。