■「邪道を突き詰めて出版の未来に貢献したい」

――一般的な作家さんは、あまりそういうことをされない印象があります。

 たしかに、村上春樹さんが同じことをしたら、ファンは「そんな無粋なことはやめてくれ」と怒るでしょうね。文学には一種の不親切さが必要ですし、それを楽しむのも豊かな文化だと思います。でも、残念ながら今の活字業界はそれだけで成立するほど潤ってはいません。本屋さんはどんどん閉店していっています。

 だから私は、たとえ本格派からは認められなくても、邪道を突き詰めて出版の未来に貢献したいと思っています。

――雨穴さん独自の試みとして、自著をテーマにした音楽づくりがあります。二作目の小説『変な絵』出版後、そのテーマ曲と言える「a Mother‘sNocturne」をYouTubeで発表しました。これに対する思いはどんなものだったのでしょうか?

 私はもともと1970年代のブリティッシュロックが好きで、特にThe WhoやPink Floydがアルバム一枚を丸ごと使って壮大な物語を描く試みに憧れていました。その真似事がしてみたかった、というのが一番の理由です。

――The Whoの「トミー」「四重人格」やPink Floydの「The Wall」などは音楽アルバムを原作として映画が作られたりしていますよね。

 はい。ですので私はその逆ですね。物語を先に作って、それを音楽にする……という。「a Mother‘sNocturne」は、気難しいイギリス人ミュージシャンがスタジオにこもってうつむきながら楽器を弾く姿をイメージしながら、パソコンで音を組み立てていきました。一番気に入っている動画です。

――70年代のブリティッシュロックがお好きとのことですが、最近のアーティストで気になる方はいますか?

 ラッパーのリル・ナズ・Xさんです。以前、彼が来日した際に日本の電車内の写真を自身のSNSにアップしていたんですが、その写真に『変な絵』の広告が載っていまして、不思議な気分になりました。

 ユーチューブ、小説、音楽……これまで唯一無二の多才さを見せてきた雨穴氏。今後、どんな新しい形の作品を見せてくれるのか期待したい。

雨穴/双葉社

プロフィール
雨穴(うけつ):ウェブライター、ホラー作家、YouTuber。2018年、ウェブサイト「オモコロ」にてウェブライターとしての活動を開始。2021年、小説『変な家』で作家デビューし、2022年には「変なシリーズ」第二弾である『変な絵』を発表した。同作は60万部を突破し、世界7か国で翻訳化も進んでいる。YouTuberとしては、ホラー・ミステリー動画の他、自作曲を歌い踊る音楽動画も複数投稿している。

 漫画『変な絵』概要
とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』……。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる!大ヒットとなった雨穴氏のミステリー長編が、『生徒死導』『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-side D.H&B.A.T』の相羽紀行氏によってコミカライズ。3月15日(金)より『コミックシーモア』で先行配信がスタート。

雨穴・相羽紀行/双葉社

◇コミックシーモア『変な絵』作品ページ

https://www.cmoa.jp/title/288534/