■「読書が苦手な人でも楽しめる本を作る」が目標

――ところで雨穴さんの小説は、お子さんや読書が苦手な若い方から多くの支持を得ていると聞きます。それについてはどうお考えですか?

 嬉しいです。デビュー作の『変な家』を出版したとき「はじめて本を最後まで読めて嬉しかった」「本が読めない自分が嫌だったけど、この本のおかげでそれを克服できた」という反応がとても多かったんです。読みやすさは意識して書いたのですが、それがここまで喜ばれるとは思いませんでした。

 同時に「読書が苦手」ということに対してコンプレックスを持っている人が多いんだな、と感じました。読書なんてただの娯楽なんだから、もっと気楽に楽しめばいいのに、と歯がゆくなってしまって。

 それがきっかけで「読書が苦手な人でも楽しめる本を作る」という目標を持つようになりました。

写真/本人提供

――たしかに雨穴さんの本は、図解がたくさん入っていたり、読みやすい工夫がされていますね。

 はい。自分が本を書くとき、絶対に守っているルールが3つありまして、それは、1、文学的な表現は避ける、2、可能なかぎり平坦な言葉を使う、3、図で説明できるものはすべて図にする、というものです。つまりリーダビリティ(読みやすさ)に全振りしてるんです。文芸としては邪道ですが、これくらい親切にしないと、読書に苦手意識を持っている人が本に慣れるのは難しいかなと思います。

――そこまで「読みやすさ」にこだわるのはなぜでしょうか。

 自分も子供の頃は読書が苦手だったからです。だから、読書嫌いの人の気持ちはよくわかります。同時に、大人になってから本の楽しさに目覚めた人間として、一人でも多くの方に本を好きになってほしい、という思いがあります。

 私の本は離乳食です。『変な家』や『変な絵』で、まずは歯と胃袋を慣れさせて、次はもっと固くて味わいのあるものに挑戦してほしいですね。私は通過点で良いと思っています。

――雨穴さんは、新刊を出すたびに第一章をYouTubeですべて公開しています。それも、読書が苦手な方への入口を作るためでしょうか?

 もちろん、認知度を高めて販促に活かすという狙いもありますが「入口」の効果もあると考えています。今って、買い物に失敗したくない時代なんですよね。そもそもエンタメに割けるお金が少ない中で、本を買ったのに好みに合わない……ってなったら悲しいです。だからYouTubeで第一章を公開することで「こういう内容の本ですよ」とあらかじめ教えるのは親切かな、と思います。

 それに、本を読む前に動画でさわりを見ていれば、読書をはじめるハードルが低くなります。「予習をしてるから内容がするする入ってくる」という感覚です。本当に本が苦手な人って、1ページ目の途中で脱落してしまうんです。だから、読書の「助走」をお手伝いするというのも、現代の作家に求められるサービスなのではないかと考えています。