■お手本は『サラダチキンバー』、1年で1000万本の大ヒット

 社内から冷ややかな視線を浴びていたのが一変。ただし、商品の販売にあたって「セブン-イレブン」は池田氏に”課題”を設けた。『サラダチキンバー』のような商品を作ってくれというのだ。

「チキンのような食感、弾力(噛み応え)があって、たんぱく質は10グラム以上。豆腐といえば水っぽいのが付き物だけど、仕事しながらでも食べられるように、絶対に手が汚れない仕様にすること。男性の好みにも合うように、味はしっかり濃くつけること。それを一つずつクリアするのに、1年かかりました」(池田氏)

 開発に足かけ2年。20年11月に「セブン-イレブン」で『豆腐バー』の販売が開始されると、1年間で約1000万本と想像以上の大ヒットへとつながったという。国内でのヒットを受け、「もともと海外での豆腐から着想を得ているので、海外でも通用するかなと思い始めた」(前同)という。

 しかし、賞味期限が長くない豆腐を輸出するためには、”冷凍保存”が必須になる。そこで同社は超高速凍結技術を取り入れ、品質を劣化させずに海外へ持っていくことに成功したそうだ。原材料は北米産の大豆であることを考えると、いっそ現地で製造したほうが早いようにも思えるが、そうしなかったのには理由があるという。

「日本の水は軟水、北米の水は硬水なんです。同じ大豆で豆腐を作っても、やっぱり軟水で作った豆腐が私はおいしいと思うんですよ」(前同)

■海外一発目をあえて『旨み昆布』にした理由

 水にまでこだわって作った豆腐。初の海外進出となるシンガポールで売り出すのは『豆腐バー 旨み昆布味』だという。日本人には素朴な風味がなじみ深い昆布味だが、海外展開をするなら、すでに販売中の『豆腐バー バジルソルト風味』や、味が濃い『焼豆腐バー 焦がし醤油味』の方が向いているのでは、と問いかけると、前出の池田氏は「一番日本で売れている味で勝負したい」と、こだわりを明かす。

「確かに、シンガポールの人は濃い味が好きだから、“旨み昆布”味だと、もしかすると薄すぎるかもという意見はありました。でも、やっぱり和食らしいものは昆布風味。まずは、それでチャレンジしたいという思いが強くありました。

 ただ、ここからがスタートです。味だけでなく、生食というスタイルへの賛否など、いろいろ海外での課題は出てくると思うんですね。今回のシンガポールは、それらを見るためのテストという位置づけでもあるんです」(池田氏)

 そんな池田氏は、SNSで「めっちゃエゴサしてます」と楽しそうに明かす。

「日本に来た海外の方が、豆腐バーを食べているという投稿はめちゃくちゃチェックします。普通に豆腐バーをおつまみに、日本酒を飲んでいる海外の方とかいるんですよ。だから絶対、海外でも豆腐バーはいけると思うんです」(前同)

 2013年に和食が世界文化遺産に登録されてから11年目。日本の伝統食”豆腐”でできた『豆腐バー』は、海外でも受け入れられるだろうか。