■『MOM'S TOUCH』の戦略の巧みさ

 韓国テイストと日本人好みの味をうまくマッチングさせた韓流ハンバーガー店の『MOM'S TOUCH』。新上陸となる韓流ハンバーガーショップは、日本でもトレンドに敏感な若い世代を中心に支持を集めそうなポイントがいくつもあるという。前出のトレンドアナリストである太田氏が話す。

「『MOM'S TOUCH』が出店した渋谷のテナントは、もともと『マクドナルド』が店を構えており、ファストフード店が受け入れられやすい立地です。スクランブル交差点にも近くてアクセスは抜群。

 そして、なんといっても話題の作り方が上手です。本格出店を前に一度、ポップアップストアで盛り上げ、連日行列になっていることをSNSで日々、報告。トレンドに敏感な層の間で話題となっていました」(太田氏)

 現にオープン直前も、店舗の公式SNSを使って、"1次予約5600席が3日で売り切れ”とショップ自らが人気度をアピール。常に何かしらの話題を振りまいて、グランドオープン日に向けた盛り上がりの波を醸成していたということだろうか。

「メニューは見た目からボリューム感を打ち出して、他ブランドと同程度の価格帯でも、“コスパの良さ”を感じさせます。看板メニューである『サイバーガー』には”あご外れバーガー“というニックネームを付け、消費者が、つい確かめたくなる心理も突いている。

 また、サイバーガーは累計5億個販売をキャッチコピーに打ち出していますが、具体的な数字というのはやはり、人の興味を引きます。消費者の関心を集める仕掛けが、細かく散りばめられているのです」(前同)

店内の壁にデザインされたネオン(地下) 撮影/編集部

 また、韓国の外食文化では欠かせない”映え要素”もしっかりと抑えているという。

「スタイリッシュなイートインスペースでは、ブランドカラーのオレンジとシルバーを基調にしつつ、壁にはネオンサインで店名をデザイン。他にも、”アンニョンSHIBUYA”(こんにちは渋谷)というメッセージボードを店内では光らせるなど、SNSに上げたくなるような戦略を意識しているようにも思います」(同)

 店内の仕掛けはそれだけではないという。韓国国内でも話題を集めるトレンドアイテムが、店内には設置されるという。

「レトロな白黒写真が数秒で印刷される、韓国で人気の“レシート写真機”も、『MOM'S TOUCH』オリジナルフレームの物が渋谷店には用意されています。商品を買ったら一人1回無料で撮影できるサービスで、“撮影欲”が旺盛な渋谷の若年層に人気が出るのではないでしょうか」(同)

 ところで、韓国グルメといえば新大久保が有名だが、なぜ『MOM'S TOUCH』は、新大久保ではなく、渋谷で出店したのだろうか。その点について太田氏は「あえて“韓国が好きな人”だけにターゲットを絞っていないという自信の表われでは」と分析する。

「渋谷に、米シアトル発のハンバーガー店『Lil Woody’s(リルウッディーズ)』が日本初となる店舗をオープンさせたのが23年8月のこと。今年4月13日には、米NY発のハンバーガー店『シェイク・シャック』もオープンしたばかり。今、渋谷は日本一のハンバーガー激戦地と言っても、過言ではないんです」(同)

 外国人観光客に人気のスクランブル交差点があることから、渋谷は現在、さまざまな国からの訪日観光客であふれかえっている。街の多国籍化に歩調をあわせるかのように、それぞれの国で独自の進化を遂げた米国発祥のハンバーガーが、渋谷の街で相まみえ、多くの客を求めて激戦を繰り広げているということなのだろうか。

「もともとグローバルに手を広げている『MOM'S TOUCH』だからこそ、ハンバーガー激戦区である渋谷に参戦というわけでしょう。日本での韓国グルメは流行り廃りのスピードが早いものですが、『MOM'S TOUCH』は韓国では定番中の定番。ですので、日本における韓国グルメ発信の地である新大久保へと出店する必要もない。渋谷に出店することで、さまざまな世代・国籍の人たちに向け、商品を打ち出したいということなのではないでしょうか」(同)

 韓国人気No.1ハンバーガー店は、果たして日本で受け入れられるか。