今年上演された山崎育三郎さん(38)主演のミュージカル『トッツィー』に、マッチョなイケメン俳優・マックス役で出演した岡田亮輔さん(41)。鍛え上げられた上半身を惜しげもなく披露して劇場を沸かせ、強烈な爪痕を残しました。

 意外にもミュージカルを始めたのは18歳になってから。遅めのスタートに加え、同世代は華やかなスター揃いで、なかなか日の目を見ることができませんでした。しかし、これが生来の負けず嫌いの性格に火をつけ、原動力となっていったのです。今回、そんな、ミュージカル界で大注目の岡田さんに話を伺いました。

元気いっぱいの岡田亮輔さん  写真/小島愛子

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――この世界に入るきっかけはなんだったのでしょうか?

岡田 僕は中・高とバスケットボールをやっていた体育会系で、芸術鑑賞には全く興味がありませんでした。母が女優(岡田可愛さん:ドラマ『サインはV』などで主演)でしたが、僕が生まれた時には女優より洋服の仕事をしていましたし、二世と言われるのも嫌で同じ世界に行くことには反発していました。

 高校3年生でクラブ活動を引退した時、母と仲の良かった布施明さん(76)から、三谷幸喜さん(62)のミュージカル『オケピ!』のチケットをいただいて観に行きました。最初は気が進みませんでしたが(笑)、開始5分で物語に引き込まれて、ものすごく面白かったです。

 一気にミュージカルに興味が湧いて、芸術系の大学を受験しましたが全滅。ミュージカル学科がある専門学校に入学しますが、クラス40人中男子は2人でした。初めてのバレエのレッスンで白いタイツを穿くのが恥ずかしいし、歌もやったことがないから全くダメ。入学から4か月後に中間発表会があったものの、どの演目にもキャスティングされませんでした。入学時は「男の子が少ないからうれしい」と言われていたのに……。

 歌も踊りも経験がある人ばかりで、自分はそのレベルに追いつけない。悔しくてそこから本気になりました。学校に通いながらバイトして、学校とは別にボイストレーニングやダンスにも通いました。そこで分かったのは、いきなり上手くはならない、地味な努力が一番大事ということです。

――同世代の活躍が刺激になったんですね。

岡田 ミュージカル『モーツァルト!』初演(2002年)のオーディションは、全く歌えず落選しました。当時一緒にワークショップに参加した井上芳雄さん(44)、中川晃教さん(41)は『モーツァルト!』で主演を務めて大成功します。同年代が華やかで輝かしく帝劇のゼロ番(センター)に立っている姿に圧倒されました。

 その後、僕は『ロミオとジュリエット』に出演しますが、城田優(38)、山崎育三郎、平方元基(38)、上原理生(37)、浦井健治(42)と濃いメンバーで。同世代の活躍に鼓舞されましたし、「自分も同じところに行きたい」という熱い気持ちがその後の原動力になりましたね。

――それにしても、『トッツィー』のマックス役はインパクトがありましたね。

岡田 役者人生20年超の時期に、この作品に出合えて最高でした。反響が大きくて、「役者としてのターニングポイントが来た!」と思いました。オーディションはブロードウェイチームによって行なわれたのですが、「マックス役は自分しかいない!」と思って挑みました。

 歌とセリフによるオーディションだったのですが、僕は役名の「マックス・ヴァン・ホーン」と言った瞬間にバーンと脱いだんです。芝居の中では脱ぐ設定ですが、オーディションでは“脱ぐ”とは全く書かれていなかったので、スタッフの人たちも皆固まっていましたね。でも僕は、脱いだ方が絶対面白いと思ったし、ウケ狙いではなく本気で脱いだんです。役が決まってからは、世界一かっこいいマックスをやってやろう、と頑張りました。

『トッツィー』はコメディーミュージカルですが、アメリカンジョークを日本流にするのが何より難しかったです。アメリカのお客さんは、右手と右足が一緒になって出てきただけで笑う。「チェリーパイ」と言っただけで大爆笑です。でも、僕たちはその感覚が分からないから、日本で同じようにウケるのか不安でした。

 演出家には、「日本はボケとツッコミで“笑いどころ”をお客さんに提示するから笑える」「僕が何かをしたら、山崎育三郎のリアクションでお客さんはその意味が分かる」ということを説明して、僕がぶっ飛んで突き進むのを育三郎が回収して成立する、ということをしました。

 皆で考えて苦労したので、本番でお客さんがワーッと笑ってくれたのを聞いた時には、皆泣きそうになりながら抱き合って喜びましたね。

丁寧に話す姿も印象的  写真/小島愛子