■「寅子」の魅力は“刷り込みに惑わされない”こと

『虎に翼』のヒロイン・寅子(伊藤)は朝ドラ主人公にありがちな”なにくそ!”と、がむしゃらに髪を振り乱したりもしなければ”こうあるべき”とも口にしない。たとえば第10話で、姉が男に売られ、騙された過去から”法律は武器だ”と考えるようになった同級生のよね(土居志央梨・31)に対して寅子が、自身は(“武器”よりも)“盾”や“居場所”のような存在になりたいと述べるシーンがある。

 真っ向から対立する意見に議論を諦め、寅子に背を向けるよねに対し、寅子は「怒り続けることも弱音を吐くのと同じくらい大切」と声をかける。

 そうした寅子の言動の数々には、《疑問を持ったことをすぐに言葉にできるの本当にすごい》《受け入れて寄り添うという寅子の懐の深さに感動》などとX(旧ツイッター)上でも、スッキリした、と感じる声が上がっている。

 前出の吉田氏が続ける。

「寅子は分断を好まず、わかり合おうとすることを諦めない。”世間って、そういうものでしょ”といった思い込みや、“共感”という名の刷り込みに惑わされないんです。逆転の発想ができる人で、苦難があっても、頭で考えて“良い方向”へと導くことができる賢さがある。

 自分にも他人にも寅子が一貫して大事にするのは、“自分の人生を他人に奪われないようにする”こと。決して押しつけがましくなく、思い込みや刷り込みがなければ自分はどうなのか、と考えさせられる道標になるのが寅子なんですよね」

 寅子が画面上で”はて?”と首を傾げるとき、そこにはふだん”世間の常識”で片づけられてきたものの、多くの人が気がづかないフリをしてきた出来事が見え隠れする。では、寅子のモデルとなった三淵さんはどのような人だったのだろうか。