■東京地検で「ここは戦場。女は要らん」

 苦労してつかんだ東大合格。しかし、住田弁護士を東大で待ち受けていたのは、「国家公務員でも女性を採用する省庁はわずか」という現実だった。結局、司法試験合格を目指し、2年留年した後、無事に合格を果たしたが、そこでも”女”というだけで何度も不条理に直面する。

「司法研修所の採用面接のときに裁判官志望と告げると、即座に、”成績が悪いね”と言われて、諦めました。後で知ったことですが、そもそも裁判官の教官は女性を勧誘せず、相手にするのは優秀な男性のみ。ある裁判教官は”女性は研修所を卒業しても、家庭に入って能力を腐らせるのが女の幸せ”と酒席で放言したんですが、そのお咎めはなし。

 かといって弁護士も、女性は歓迎されない時代。結局、司法修習をする中で、人権を護り、社会正義を貫ける仕事だと実感して検事を志しました」(住田弁護士)

 住田弁護士によれば、「実は、その頃、検事は人気がなく定員不足だったので、なんとか、たまたま、採用された」というが、新任の東京地検であいさつ回りをしていると、「ここは戦場。女は要らん」と特捜部長から、強烈な言葉を放たれたという。

 その後、同期の男性検事と結婚し、妊娠の報告に行くと上司からは「で、いつ辞めるの?」と、これまた想定外の返答が。結婚や妊娠は退職のきっかけとして当たり前だった時代ゆえか――「女性は、家事・育児に専念するもの」という価値観をよく表すひと言である。

 ただし、「仕事をする女性」はもとより、「子育てをしながら働く女性」に理解がなかったのは、男性だけではない。

「保育園でも、保育士さんから”他のお母さんは早くに迎えに来られるのに、住田さんは遅くて可哀相”と言われました。幸い、夫の母はシングルマザーとして苦労したので、働く女性には理解がありましたが、うっかり“いいとこのおウチのお嫁さん”になったら、お姑さんから”女は仕事よりも夫・子どものお世話が大事”という圧があった時代。東大の同級生もそれを理由に、次々と仕事を辞めていきましたから」(前同)