■寿司の名店が「冷凍握り」を手がける背景

つきじ鈴富 すし富本店 ※写真は株式会社B&Tマリンプロダクツカンパニー提供

 それにしても銀座にも本格的な握り寿司店を出店する歴史ある仲卸業者が、“冷凍握り”を手がける背景には何があったのか。

 今回、『鈴富』を運営する株式会社B&Tマリンプロダクツカンパニーの社長である鈴木勉氏に話を聞いた。鈴木氏によれば、冷凍握り寿司を構想したのは15年ほども前とのこと。鈴木氏がその経緯を振り返る。

「特殊冷凍機を導入して、解凍しても生のマグロや鮮魚の味が落ちない凍結に挑戦したんです。そのとき、素材である生魚を凍結するよりも寿司という商品形態のほうが、直接消費者にアプローチできるため特殊冷凍を利用したビジネスの可能性が広がる、と思ったんです。

 日本においしいお寿司屋さんはたくさんあります。それでも弊社としては、家で食べて“世界一おいしい寿司”を目指したかった。買ってきたパック寿司でも、宅配の寿司でもやはり“握りたて”とは異なります。そこで、この冷凍機を利用して、冷凍寿司を実現できれば面白いなと。でも、そのためには優れた解凍方法が必要というところで商品開発は止まってしまっていました」(鈴木氏)

 解凍方法においてどうしても譲れなかったのは、「誰でも簡単に、お寿司屋さんのカウンターで提供されたものと遜色のない握り寿司を食べられる」ことだったという。絶妙な職人技で握られた寿司をいつでも堪能できることを追求し、編み出したのが特許を取得した2段重ねの専用容器だという。試行錯誤の末、最終的に商品が完成したのは約1年前のことだった。

”家でも本格的な江戸前寿司を”と喧伝するからには、解凍後の見た目にも心を砕いたという。

「ウニを解凍すると形が崩れてしまいそうに思えるかもしれませんが、きれいな形を保てるように質の良いウニを使用しています。見た目はもちろん、食べ応えや味も冷凍とは思えない満足度です」(前同)

 築地や豊洲は現在、訪日外国人客で賑わい、寿司も大人気となっている。インバウンド需要について鈴木氏は「特に意識していない」としつつも、「海外展開のニーズはあると考えています。海外に住んでいる人にも日本で握られたままの寿司を食べてほしい」と海外への商品輸出にも前向きだ。

 これまでもさまざまな冷凍食品が食卓を彩ってきたが、今度は家にいながら名店の寿司そのままの味を楽しめる高級冷凍握り。家庭での食事に新たな選択肢と豊かな時間をもたらしてくれそうだ。