■「雑多」なつくりがもたらす「安心感」
新・宮下公園は商業施設の上という立地でありながら、“雑多”な点も人を集めるポイントだ。
前出の山崎氏によれば、新・宮下公園の“空中庭園”というキャッチーさは世界的にも注目度が高いという。ニューヨーク市にある、廃線になった高架鉄道路線跡を利用した全長2.3kmの線形公園「ハイライン」や、高速道路のトンネルの上につくられた“サンフランシスコ版ハイライン”ともいわれる「プレシディオ・トンネル・トップス」などを思わせるという。
「その中で日本らしいなと思うのは、人々が安心・安全を感じながらも、ちょっとワクワクするような仕組みであるスケート場やサンドコート(砂場)などが仕掛けられていることです。いろんなアクティビティをしている人たちが混在しているからこそ、自分もいていいんだという敷居の低さにつながっているのでは」(山崎氏)
これまで商業施設の屋上といえば、ビアガーデンや子どもの遊び場、植物園など何かしら特定の目的をもったものがつくられてきたが、新・宮下公園はさまざまな目的で利用できる。しかもMIYASHITA PARKは1階にハイブランドが軒を連ねつつも、すぐ脇には気軽な居酒屋が並ぶ横丁があり、施設内にはマクドナルドやスターバックスコーヒーなどカジュアルなフードスペースもある。価格帯も目的もバラバラなものが一堂に集まるスポットなのだ。
「都市計画業界では、用途がたくさん混ざった店舗が混在することを”ミクストユース”と言うんですが、すごく重要なんです。いろんなお店が入っているほうが人が常に滞留するので賑わいが出るし、賑わいが出ている通りは人を惹きつけます」(前同)
続けて山崎氏が「ダラダラできる場所」の魅力を話す。
「今、渋谷には路上に外国人がよく座っていますが、日本の道路は“歩く”通路であって、ダラダラできるようにはつくられていません。海外なんかでは家の前の道路にテーブルを出したりして、座る前提の広さが確保されていますが、日本にはそれがないうえに、路上に座るのはマナーとしても問題視されてしまいます」(同)
しかし、少子高齢化の時代と言えど、首都・東京の人口は急増中。23年の人口は前年よりも3万人ほど増え、およそ1410万人だ。
「滞留できる、ダラダラできるところが少なくなっているわけじゃなくて、人が増えているから空きスペースの奪い合いになっている。
そうした中で、いろんな人がいろんなことをやっている様子を傍観でき、飲食物もあって、ゆっくりしても怒られない。そういった条件がそろっている場所は、まさに人々がいたくなる空間になりえます。いろんなノリの人が一緒にいても構わないという雰囲気づくりの理にかなってるのが、新・宮下公園なのだと思います」(同)
女子高生がSNSの写真を撮影している後ろの芝生では会社員が昼寝。その横では大学生グループがコーヒーを片手に談笑し、ひとり読書にいそしむ女性の姿も――。変貌を遂げた新・宮下公園は“いろんな人がいていい”という安心感をもたらす都会のオアシスなのだ。
山崎満広
1975年6月6日 生。サステナブル都市計画家。都市の持続可能な経済開発やプロジェクトマネジメントに携わる。サザンミシシッピ大学修士課程修了。専門は都市および地方計画、経済開発。著書に『ポートランド-世界で一番住みたい街をつくるー』(学芸出版社)。
公式サイト(https://www.mitsuyamazaki.com/)