■明治時代“オオカミ駆逐”のツケがまわってきた
クマだけでなく、街中での目撃報告が増える野生動物たち。サルやキツネを含め“アーバンアニマル”の目撃頻度が上昇している現象に対し、アジア動物医療研究センター長のパンク町田氏は「個体数の増加」を原因に挙げる。
「かつては、日本にはオオカミがいました。しかし、オオカミは絶滅。また、人間の生活圏を守る役割を果たしていた犬も、放し飼いで飼われることはなくなりました。結果的に野生動物の天敵は自然界にはいなくなり、動物たちが増えるのにちょうど良い環境が整ったと。すると、増加した動物の数に対して生息面積が足りなくなり、都市部にまで下りてくるようになったというわけです」(パンク町田氏)
日本においてオオカミは、明治時代に駆逐されてしまった過去がある。家畜を襲うなどして人間の生活に危害を与える“害獣”という扱いだったためだ。
「オオカミがいた頃は、クマにしろサルやキツネにしろ、個体数の増加にはどこかで歯止めがかかっていたんです。たとえば最近では、子グマが単体で歩いている姿もしょっちゅう目撃されています。昔だったら、もし親とはぐれたような子グマがいたらオオカミに襲われていた。それが今は間引くオオカミもおらず、さらには“オオカミ代わり”だったハンターも減少しています。オオカミがいれば緊張関係の野生生活が保たれ、サルやキツネも増え続ける事態にはならなかったでしょう」(前同)
オオカミの絶滅とは異なるもう1つの理由が、サルの個体数増加にはあるという。
「人間による餌付けが成立してしまった側面があります。ここでいう餌付けとは能動的に餌をやる行為のことだけではなく、人間が出すゴミや、育てている農作物もサルにとっては“餌付け”と同義。
そしてサルは餌をくれる相手を“格下”に見るので、一度そのうま味をおぼえると襲ってくるようになる。結果、動物にとって生き延びる環境ばかりが整ってきてしまっているというわけです」(同)