■ラーメン1杯800円を突破して『天下一品』はSNSで“高級料理店”扱い

 生き残りがますます厳しくなっているラーメン業界。個人店や小規模チェーンだけでなく、全国に200店舗以上を展開する『天下一品』のような大規模チェーン店もその苛烈な競争に飲み込まれている。前出の岩崎氏が続ける。

「チェーン店の場合、価格帯は重要。天下一品は元々、“美味しいけどそこまで高くない”というところで人気があり、飲み会の後のシメの一杯とか、若い学生にも利用しやすい立ち位置だった。それだと1杯800円以内が限界で、800円を超えるともう別の業態になってしまう。

 しかし22年6月1日の値上げで、700円台だった普通のラーメン並盛りは900円近くにまで上昇。そのため離れる人が増えたのでしょう。トッピングをつけたり大盛りにすれば、あっという間に1000円を超えますし」(岩崎氏)

6月30日で閉店する『天下一品』池袋東口店  撮影/編集部

 原材料・物流費の高騰がラーメンの価格を押し上げているが、そこでいわゆる“1000円の壁”――単価が1000円を超えると客足が伸びなくなるという定説にぶつかっているわけだ。実際、23年の値上げ以降はSNSで《天一は高級料理店になったなぁ》といった声も多く寄せられていた。

「すごく人気のある個人店は軽く1000円を超えますが、それはその店ならではの価値を提供しているから。多くの人に食べてもらいたいチェーン店だと、普通のラーメンで1000円どころか800円以上となると厳しいでしょう」(前同)

 チェーン店には“800円の壁”が立ちはだかる。こうした中、関東地方に400店舗以上を構える中華チェーン『日高屋』は24年2月期の純利益が前年比でおよそ2倍の32億円となるなど絶好調だ。

「飲食にはざっくり400円、800円、1000円という価格の区分があって、『日高屋』も先日値上げをしましたが、人気の『中華そば』は390円(税込み、以下同)に据え置いており、安いということが最大のウリになっていることをよく理解していますね。自分たちの店がどういう立ち位置なのかを理解した値付けというのが非常に重要なのです」(同)

 では、チェーン店の生き残る道は価格にあるのか。

「『日高屋』のように安さを武器にするのもひとつの手ですが、必ずしも価格だけではありません。味にものすごく特徴のある商品を開発するとか、メニューが豊富にあるとか、家族連れで利用しやすいとか、とにかく何かしらの独自性を強く打ち出す必要がありますね」(同)

 多くの有名芸能人も魅了されているこってりラーメンの『天下一品』の逆襲の一手は――。

岩崎剛幸
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。著書に『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)
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