■視聴者にもたらされる「肯定感」と「活力」
店やメニューのチョイスも絶妙だという。
「仮に五郎さんが食べるものが超高級だと非日常感が漂ってしまい、視聴者は自分ごとにできず、“俯瞰”で見ることになってしまいます。ですが、『孤独のグルメ』は安さを追求しているわけでもない。ちゃんと美味しくて庶民が一人でも行けそうなお店選びも、視聴者が等身大で入り込めるポイントだと思います」(前出の鎮目氏)
ドラマに出てくる店は、すべて実在する。ただし登場する店主や客はほとんどが俳優だ。リアルとドラマが交錯する世界で、視聴者には「安心」が約束されるという。
「五郎さんは“おいしい”を超えて“幸せ”そうにご飯を食べるんですよね。一人で肩ひじを張るわけでもなく、わびしいわけでもなく、自分は自分、とちゃんと楽しんでいる様がある。しかも食べ終えて、店を出る時には毎回元気になるのがお決まりの流れで、視聴者を裏切ることはありません」(前同)
食を堪能する五郎と一体となった視聴者が受け取るのは、頑張っている自分へのご褒美と、自分らしくいればいいという肯定感。最終的には“また頑張ろう”という前向きな気持ちももたらしてくれる。
“一人ご飯”における同ドラマの位置付けについて、鎮目氏は「『孤独のグルメ』という番組そのものが、栄養をくれる“おかず”として成立するのだと思います」と評する。
Season5・第7話で五郎はジンギスカンに舌鼓を打った後、店を背にしながら「食いたいものを食いたいように食いたいだけ食うこと以上に、元気が出ることはない」と心でつぶやいた。五郎の信条が象徴される言葉といえそうだが、その姿は同時に、視聴者のエネルギー源にもなっているようだ。
鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)