■夏休みには短期契約アパートに家族で来て塾の特別授業を受ける――

 韓国社会の一部はまさに、ドラマ『SKYキャッスル』で描かれている世界そのもののようだ。富裕層の子は、教育熱心な親から洗練された教育環境を用意されることで、その社会的な地位をも引き継いでいくというわけだ。ドラマの世界を地でいくような地域も、韓国の首都・ソウル市内にはあるという。

「江南(カンナム)区は名門高校や有名塾が揃っているため人気があります。夏休みにもなれば、地方から同地の塾の特別授業を受けようと、家族ごと短期契約アパートに引っ越してくる家族もあるほどです」(前出の金さん)

 江南区の教育環境が整備されるほどに地域の地価も上昇。ハリウッドセレブの大邸宅が軒を連ねるロサンゼルスの高級住宅街ビバリー・ヒルズよりも地価が高いとも言われているそうだ。

「韓国で最も人気があるのは110平米前後の大きさの部屋。現代建設やサムスン物産といった有名建設会社が建てるブランドアパートは、江南区では最低3億円はします。なかには10億円以上する部屋もあるほどです」(前同)

 これらのエリアではドラマの世界同様に、保護者間で火花を散らし合うような見栄の張り合いが繰り広げられているともいう。

「韓国では“下車感”という言葉があります。ベンツやBMWといった高級車からドライバーが降車すると周囲は振り向きますよね。この時に感じる爽快感を下車感と表現するのです。子どもが小学校に入学するからと、下車感の良い外国車に買い替える人もいるほどです」(同)

 現に昨年、韓国国内で販売されたイギリスの最高級車ベントレーの数は810台とアジア地域でナンバー1だ。高まり続ける韓国国内での“セレブ子育てフィーバー”。一方では別の問題も深刻視されている。

「現在、韓国では子ども1人にかかる塾代などの教育費が、平均して月に43万ウォン(約5万円)を超えると言われています。子どもが2人いれば塾代だけで月に10万円。韓国の平均年収は410万円ほどですから、子育てに掛かる金銭的な負担は非常に大きい。あえて“子どもを持たない”という選択をする夫婦も増えています」(同)

 大学受験が国民的な関心ごととなり、その過熱する世界を描いたドラマはメガヒット――だが、日本以上に少子化が進んでいると言われる韓国の未来は――。

金敬哲
韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局の記者を経て、現在はフリージャーナリスト。著書に『韓国 行き過ぎた資本主義――「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)がある。