■プロジェクト開始のきっかけは東日本大震災

避難所となった石川県立田鶴浜高校の体育館  写真提供/松本隆さん

 前田さんが畳を被災地へと届けるプロジェクトをスタートさせたのは2013年。そもそものきっかけは、2011年に起きた東日本大震災だったそうだ。前田さんは自宅のある関西地域から映像で見る東北の避難所の状況に、「床が冷たそうだな、暖かかったらいいのに」と思ったという。「畳店として何かできないか」と居ても立っても居られなくなったそうだ。

 ただし、その構想をプロジェクトという形にするまでには2年もの年月を要したとのこと。「自分の店だけでやるのは限界があるし、被災地の迷惑になってもいけない」という思いから、慎重に仕組みづくりを考えたという。

 決意を後押ししたのは、前田さんが東日本大震災で実際に避難した人たちの話を聞くなかで、「畳が1枚でもあったらそこで授乳することができたのに」という声だった。

「まずは近くの畳店さんに相談して、少しずつ畳店さんから畳店さんへと紹介してもらって。プロジェクトの考えを話すと、皆さんすぐに賛同してくださったという感じですね」(前田さん)

 前田さんのプロジェクトに賛同する店は増え続け、現在45都道府県で約500もの畳店が参加している。届けられる畳の枚数の目安は「5日で5000枚」。被災地へと届ける畳は毎回、新しい物を作る。

「事務局からどこそこの被災地のために何枚ほしいというアナウンスをして、畳を作るのに1日~2日。いったんそれを一か所に集め、輸送に1日、現地での配送に1日という計算で、5日を目標にしています」(前同)

 畳は厚みや大きさを揃えるのはもちろん、現地で運びやすいように通常よりも薄く、軽くする工夫が凝らされているそうだ。ただし当然、店によって畳を製作できる能力規模は異なるうえ、畳を無償提供できるかどうかはその時の店の経営状況にも左右される。さまざまな事情を鑑み、参加店は毎年提供できる枚数を更新するという。