■2016年、熊本地震の際は6000枚も被災地で配布

全国から石川県立田鶴浜高校へと集まった畳  写真提供/松本隆さん

 今では多くの畳店が参加している被災地への畳配布活動。活動のスタート当初は試行錯誤の連続だったそうだ。前出の前田さんは「当初はプロジェクト自体がまだ認知されてないし、警戒されるかなという気持ちはあった」と明かす。

「被災地の方たちにとって、遠くから来たよそ者が何かするのは、やっぱり不安感もあったと思うんです。でも、そこに現地で顔なじみの畳店さんが一緒に行くと、“ああ、◯◯さん”という感じで、すごく安心してくださる。

 道も現地のメンバーが先導してくれると地元の勝手がわかっているのでスムーズです。そういう地域のつながりがあるからこそ、届けることができているなと感じることは多いです」(前田さん)

 被災地に畳を届けるにあたっては、自治体と地域の畳店が災害復旧を目的に締結する災害協定を結んでおくことも、活動をスムーズにする秘訣だという。いざという時に備え、参加する畳店とそれぞれの自治体が締結した災害協定の数はいまや約180だ。

 そんな同プロジェクトがこれまでにもっとも多く畳を届けたのは、16年の熊本地震の時で合計約6000枚にのぼったという。

「畳の香りで安心する、癒やされると言ってくださる被災者の方も多いです。また畳の上では座卓で食事を取ったり、ゴロゴロすることもできる。靴を脱いだ状態で少しでも身体を休められることに、喜んでくださいます。

 また体育館のように広い避難所では防音の効果も大きいようで、もし畳がなかったら土足やスリッパで歩くことになりますが、夜はどうしても足音が気になってしまう。その点、畳の上では裸足ですので、足音がすごく軽減されます。役に立っているんだなと思えると、僕たちも活動のしがいがありますね」(前同)

 ただし前田さんは「できないことはできない」と話す。

「あくまでも自分たちの手の届く範囲で活動している。日頃の地元への恩をいざという時には畳でお返ししたいというだけなんです。目の前で倒れられた方がいらっしゃったら手を出して、自分たちができることをしようというだけでね」

 能登半島地震から半年――日本の伝統工芸品を作る職人の技術と心意気は、被災地域で暮らす人々に確実に届いているだろう。