■夜アイス専門店が若者に人気のワケーープチ贅沢とコミュニケーション需要

 夜パフェ文化から誕生したという夜アイス専門店。価格帯は500~700円台と、スーパーやコンビニで手軽に買えるものよりはやや高い設定なのだが、若者に人気なのはなぜだろうか。

「ひとつは“プチ贅沢”ということですね。ものすごく高いわけでもないし、専門店という安心感もあるので、そんなにリスクを取らずに満足度が得られやすい。スイーツの流行は昔に比べて格段に早く回っているので、新しいスイーツ情報として友人との話題のネタにもなります」(前出の原田氏)

 夜アイス専門店は『21時にアイス』『アイスは別腹』『0cal/ダイエットは明日から』など変わったネーミングのものが目立つが、「クスっと笑えて、ハッシュタグとしても使える。SNSを意識したワーディングでしょう」と原田氏。“ネオ居酒屋”系のネオンサインなどで彩られた“映える”見た目をしていたり、店内に撮影のためのスペースがあったりと、SNS映えは意識しているようだ。

『21時にアイス』の鮮やかなネオンサイン ※撮影/編集部

 だが、そんなSNS映え以上に、友人たちとのオフラインのコミュニケーションを生むツールとしての魅力が、夜アイスにはあるという。

「節制して体型を維持したい、そういうときに夜中にアイスというのは背徳感があって、そうした背徳感を友だちと共有することで絆を確認し合うといった面もあるようです。また、そもそもお酒を飲まない若者も多いですが、夜に友だちと遊んだ後、もうちょっと話したいけどお酒はいらないしそんなにお腹も空いていない、でもカフェも開いてない……というときに、深夜まで営業している夜アイス専門店はちょうどいい受け皿になっているんですよ」(前同)

 スーパー、コンビニ、レストランと至るところで手に入り、すっかり日常のデザートとして浸透したアイスクリーム。若者に交流の場と機会も与える夜アイス専門店は、国民的デザートの新たな可能性を示しているのかもしれない。

原田曜平
慶應義塾大学商学部卒業後、広告業界で各種マーケティング業務を経験し、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。 2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に「寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生(角川新書)」「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?(光文社新書)」など。