■生方氏が『海のはじまり』で伝えたい「ふたつ」のこと

 これまで、元恋人・水季(古川)の死因は「病気」としか明かされていなかったが、第5話で具体的には子宮頸がんで亡くなっていたことを夏(目黒)は知った。

 そして、かつて医療機関で助産師、看護師として働いていた脚本家の生方氏は、WEB版の『GINGER』(6月27日配信)の放送前インタビューで、こう話していたのだ。

《明確に伝えたいことはふたつだけです。ひとつは、がん検診に行ってほしいということ。すべての人が受診できる・受診しやすい環境が整ってほしいです。もうひとつは、避妊具の避妊率は100%ではないということです》

 第1話で弥生(有村)が検診をサボろうとする会社の後輩に「何かあってからじゃ遅い」と注意する場面があったことからも、“がん検診に行ってほしい”というのは生方氏が強調したいメッセージであることが伝わってくる。さらに、中絶と、避妊の失敗による妊娠、それに伴うカップルや家族のつらさが、同作の全編を通して描かれている。

 そんな重いテーマを正面から描いてきた『海のはじまり』は1話以降、視聴率が下落傾向にあったのが、ここにきてV字回復しつつあるという。

※画像は『海のはじまり』の公式X『@umi_no_hajimari』より

「『海のはじまり』は、現在テレビ界で重視されるコア視聴率(13歳から49歳までの個人視聴率)5%超を叩き出した『silent』のスタッフが再集結した、今をときめく目黒さんの主演作ということで大注目を集め、他局が“初回つぶし”にくるなか、初回はコア視聴率2.9%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)と悪くないスタートを切りました。

 ところが、想像以上に重すぎる、とも感じられる内容に、離脱してしまった人も多くいたようで、2話で数字を落とし、3話には2.4%まで下がっていた。それが第4話で、再び2.9%と一気に持ち直したんです。

 大竹しのぶさん(67)、池松壮亮さん(34)などの一流俳優の名演技、そして神奈川の海をはじめ美しい映像――作品のクオリティは非常に高く、脚本家・生方さんが明示していた“2つの伝えたいこと”を真摯に描いていることも、徐々に受け入れられつつあるのかもしれませんね」(制作会社関係者)

 放送枠のフジ月9枠は、かつてはトレンディドラマを量産してきた枠で、気軽に楽しめるラブストーリーや明るく楽しい作品が多く放送されてきた。『海のはじまり』のようなシリアスな作風を求めていない人も多かったと思われ、実際に“月曜日から重すぎる”といった声も上がっている。だが、

「『GINGER』のインタビューでも触れられていることですが、脚本家の生方さんは“月9”にとらわれないことを意識しているといいます。自分が伝えたいことをしっかりと正面から描いていますよね。それが、主演の目黒さんたち俳優陣の演技と、『silent』を大ヒットさせたスタッフによる丁寧な作品作りによって、視聴者にも伝わってきているのではないかと。

 第1話を観て、“重すぎる”と感じたライト層はいなくなったかもしれないですが、『海のはじまり』は5週連続でX(旧ツイッター)の世界トレンド1位入り、TVerでもお気に入り数が164万人超(7月30日午前10時現在)と夏ドラマで断トツの数字を残していることからも分かるように、注目度は圧倒的に高い。ドラマファンや、同作を本当に観たい人が少しずつ集まり出しているのが、第4話以降の“V字回復”だとも考えられます。

 本作のようにスタッフの本気がビンビン伝わってくるドラマが、数字も残して商業的にも成功となれば、テレビ局サイドも挑戦的な作品を作りやすくなる。そうなれば、地上波ドラマの未来も明るいと思われます。『海のはじまり』のさらなる躍進に期待する関係者は多いでしょうね」(前同)

 重いテーマを正面から描きながら、視聴後はどこか心が温かくなる『海のはじまり』。物語は折り返し地点に入っているが、さらに多くの視聴者を獲得していけるだろうか――。