■美容医療で使用する「ヒアルロン酸」とは――

 少々専門的になるが、ヒアルロン酸は、Nアセチルグルコサミンとβ-グロクロン酸の2分子結合を1つの単位としてグリコシッド結合を繰り返しているグルコサミノグリカンの高分子のムコ多糖類である。通常、ヒアルロン酸は私たちの体内のいたるところに存在しており、特に、目(硝子体)、皮膚(真皮)、関節液などに多く含まれている。

 一方で、美容医療で使用する「ヒアルロン酸」とは何なのか、ご存じだろうか? 注入用のヒアルロン酸は、人工的に合成したヒアルロン酸を目的に応じて架橋剤を使用し安定化させ、皮膚内にとどまる構造になっている。

 このように、ヒアルロン酸は身体の構成成分の1つであるため、理論的にはアレルギー反応のリスクは極めて少ない。したがって注入前の皮内テストは不要であり、クリニック側としても治療を提案しやすい。なお、稀に報告されるヒアルロン酸注入によるアレルギー反応は、ヒアルロン酸そのものというよりも、製剤の生成過程で含まれる少量のタンパク質や架橋剤などによるものであると考えられている。

 注入治療において、一般的に、ハイドロキシアパタイト(骨や歯に含まれるリン酸カルシウムの一種)やシリコンなどのような非吸収製剤(体内で吸収されない成分)は、重篤な合併症が多く、未知なる合併症についても非吸収製剤の方が多いと考えられている。その点、ヒアルロン酸は良くも悪くも吸収製剤(時間と共に体内で吸収される成分)なので、非吸収製剤に比べると安全であると言える。

 そして、このような吸収性製剤は、生理的に分解・吸収されるため,治療が可逆性であるという大きな特長があり、美容治療初心者にも敷居が低い施術である。事実、日本では年間 14.9万件(2017年)、12.4万件(2018年)と非常に多くの施術がなされており,すでに一般的な施術となっている。

 美容医療の世界においてヒアルロン酸の注入は、顔面のシワの改善、骨や脂肪のボリュームロスの補填、形状の補正などを目的として行なわれる。短時間の治療で、シワ・タルミ・形状の改善など、様々な若返り効果を得ることができるのが一番の特徴である。そして、注入方法によって、大きな変化から小さな変化までコントロールが可能である。

 ここで少しクリニックの事情をお伝えしたい。ヒアルロン酸製剤は使用中に障害が起こった場合、生命や健康に重大な影響を与える恐れがあるため適正な管理が必要とされている「高度管理医療機器」に分類されている。

 2024年現在、日本では医療機器として承認を取得し販売されているヒアルロン酸製剤が数種類あり、第一選択としては承認品を選択すべきである。しかし、現実問題、承認品は購入原価が高いだけでなく、限られた種類だけだと多様な施術をカバーしきれないことも事実であり、承認外の製剤も採用しているクリニックも多い。なお、当院でも承認品と未承認品の両方を取り扱っている。