年々進む高齢化と美容医療の一般化――日本では今、それが同時に起きている。今後、さらに超高齢化が進み、いよいよ人生100年時代に突入しようというなか、深い考えなしで踏み込み、美容医療とのつき合い方を間違えば、大きな後悔をしてしまうことも……。

 形成外科・美容医療の専門医として10年以上、臨床と研究に従事、2019年に開業し、現在は東京・恵比寿こもれびクリニックの院長として勤務する西嶌暁生(にしじまあきお)氏。「人はそれぞれに合った健康や美しさがある」をモットーとし、日々“飾らない美”ナチュラルビューティーをサポートしているという西嶌医師が想う、人生100年時代の医療とは――。

西嶌暁生医師  ※提供画像

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 2019年7月に、形成外科や乳腺外科の間で激震が走りました。2014年1月に乳がん手術後の再建用人工乳房(インプラント)が全面的に保険適用になって以来、国内で最も使用されてきた米国アラガン社の乳房インプラントであるナトレル410シリーズが、発がん性の疑いがあるとして、アメリカ食品医薬品局FDAの指導のもと同製品の自主回収(リコール)が決定したのです。この製品は、世界中で広く使われており、当時、日本においても健康保険で認可されている唯一の製品でした。

 このがんは、「ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(Breast Implant Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma, BIA-ALCL)」と呼ばれ、乳房再建術や豊胸術後に生じることが分かっています。この疾患はT細胞性リンパ腫の一種で乳がんとは異なる悪性腫瘍なのです。

 そして、ナトレル410シリーズは、挿入後のインプラントのズレを予防するため、表面にBiocell(バイオセル)というザラザラの表面構造があるのですが、これが、リンパ腫の発生リスクと関係があると考えられています。ただし、誤解が無いように申し上げますと、このリンパ腫の発生リスクは0.03%と低く、摘出手術を行なった場合の出血リスクの方が高いため、予防的なインプラント摘出手術は推奨していません。

 この事件をきっかけに、私はこれまで以上に人工物に対して慎重になるとともに、人生100年時代を生きる目の前の患者さんにとって、どのような美容医療が一番幸せにつながるか考えるようになりました。

 確かに、非吸収性の人工物を利用した美容医療は劇的な変化が得られます。たとえば、鼻にプロテーゼ(シリコンでできた人間の軟骨に近い性質の医療用人工軟骨)を入れたら鼻は一瞬で高くなるし、胸にシリコンを入れたらすぐに大きくなります。最近では、顎にプロテーゼを挿入し、鼻尖~唇~顎先の“黄金比”を形成したり、おでこにシリコンを入れて丸みを出す術式もあります。

 ただ、そのような人工物が経年劣化し、それに隣接する組織にダメージが蓄積されることは避けられません。具体的には、

・胸に入れた豊胸用のシリコンインプラントが破損して乳腺組織と混ざり石灰化して大手術が必要になる。
・鼻に入れたプロテーゼが感染して抜去を余儀なくされる。
・顎に入れたプロテーゼが骨融解を引き起こして骨格がゆがむ。
・溶けない(非吸収性)スレッド(糸)リフトが感染して摘出が必要になる。

 など、多くのトラブルが生じていることも事実であり、私も他院のトラブル症例を数多く対応してきました。