■体内に挿入した人工物を人生の伴侶として60年間近く添い遂げる覚悟はありますか?

 さて、これらの現実を背景に、「シニア美容」を考えてみたいと思います。

 実は最近、自分の母のシミを取る機会がありました。母は6人の子どもを育てあげ、自身も大病を患い大手術を経験し、現在、前向きに生きています。そんな母はこれまで美容医療とは全く無縁でしたが、ささやかな恩返しとして顔のシミ取りをしました。そうすると、美容医療に全く興味が無いと思っていた母から、

「これは、人の心を明るくする治療だね。これまでよりも気分が晴れやかになって、ジムでも頑張れるようになったわ」

 という言葉が返ってきました。シミやイボの増加は100%の人に訪れる老化現象です。その一部を少し改善するだけで、気持ちまで明るくなったのです。私はあらためて、美容医療とは、「見た目を美しくする」だけではなく、「心を美しくする」効果もあるのだと感じました。他人にどう見られるか、どう思われるかではなく、主役は「自分」なのです。そしてまさに、シニア美容は「心を美しくする」ことが主たる目的と確信しています。

 それなのに、身体に人工物やタトゥーを入れた人の中には、50才を過ぎたあたりから、

「体に入っているこれ、どうしよう……」

 と悩む方もいます。

 私は、シニア美容において、「シワやたるみ治療、人工物による整形」よりも、「シミやイボ治療」を優先すべきだと思っています。シワやたるみは100%避けられない老化ですが、シミやイボは予防も治療もできるのです。

 自分の顔や体は、 これまでの人生を刻んできた証です。それを否定することなく、自分らしいナチュラルビューティーを目指すことが、超高齢化社会における美容法だと思います。

「人工物を駆使した黄金比の顔」を目指すことを否定するつもりはありません。自分の身体なので自分の自由にしたら良いと思います。ただ、人生100年時代の社会における本当の「美容」とは、その人が生まれながらにもっている「自分らしさ」を活かして、安全で確かなナチュラルビューティーを目指すことではないでしょうか。

 あなたは、美容医療で体内に挿入した人工物を人生の伴侶として60年間近く添い遂げる覚悟はありますか? リスクを理解したうえで、過去、現在、そして未来の自分を大切にした判断をしていただきたいと思います。

にしじま・あきお 1984年7月7日生まれ、富山県出身。形成外科・美容医療の専門医として10年以上、臨床と研究に従事し、2019年に開業。現在は東京・恵比寿こもれびクリニックの院長として勤務する。肌細胞の再生をキーワードに、美と健康のパーソナルドクターとしてオーダーメイド医療を提供している。