■2時間半超えの大作でも2本立てが当たり前

5.『新幹線大爆破』×『ずうとるび 前進!前進!大前進!!

 1975年に公開された『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌)は2時間33分の大作だが、これにも併映作があった。『ずうとるび 前進!前進!大前進‼️』(監督:三堀篤)というドキュメンタリー映画だ。

 昭和カルチャーと映画業界に詳しい脚本家の小松公典氏は、この意外な組み合わせの裏事情をこう解説する。

「ずうとるびは、『笑点』(日本テレビ系)の座布団運びでおなじみ山田隆夫が在籍していた男性アイドルグループです。『NHK紅白歌合戦』にも出演するほど人気だったんですよ。東映としては、『新幹線大爆破』の高倉健千葉真一宇津井健らに興味を示さない若い女性ファンも劇場に呼びたかったのでしょう」

 ただし、『ずうとるび 前進!前進!大前進!!』は32分の短編だったため、人々の脳裏には、『新幹線大爆破』の重厚なインパクトしか残らなかったようだ。

 2本立て興行の結果、想定外のトラウマを被る、“2本立てあるある”もあった。

「1977年の『惑星大戦争』(監督:福田純)というスペースオペラの同時上映は、松本清張原作の『霧の旗』(監督:西河克己)でした。

 主演の山口百恵が三國連太郎を誘惑する場面があり、『惑星大戦争』目当ての子供たちは見てはいけないものを見てしまった罪悪感を覚えたとか。

 また、1987年のファミリー映画『ドン松五郎の大冒険』(監督:後藤秀司)は『バタリアン2』(監督:ケン・ウィーダーホーン)という米スプラッター映画と二本立てに。かわいい犬の映画を観に行った人が、恐ろしいゾンビに遭遇することになったのです」(小松氏)

 ちなみに、こうした2本立て映画の評判は、意外にも上々だったようで、

「観たい映画にオマケが付いていたので、お客さんにはお得感がありました。劇場側も同じ属性の作品2本立ての場合は相乗効果を期待できましたし、違った傾向の作品を並べた場合は異なる客層の集客を狙うことができたんです。たとえば子供向け作品は保護者同伴なので、あえてアニメに大人を意識した作品をくっつけるケースもありました」(小松氏)

 2本立て上映、それはシネコン時代にはめったに味わえない映画体験を提供する場だったのだ。

小松公典
1970年、兵庫県生まれ。脚本家・俳優。助監督として映画業界入り。2000年代以降、脚本家として本格的な活動を始め、ピンク映画、Vシネマなどでキャリアを積む。バブル期の空気を再現した『101回目のベッド・イン』(2016年)、SF映画『スモーキング・エイリアンズ』(2018年)など、作品に独特のユーモアと昭和的サブカルチャーを取り入れることが多い。