■「アンパンマン効果」や例のパワーワードが理由か

 ともに異次元の高視聴率を獲得する『トトロ』と『ラピュタ」だが、それぞれ“強み”を持っているという。まず、『トトロ』が毎度、高視聴率を記録する理由――1つは、「親が安心して子どもに観せられるから」(前出の鎮目氏、以下同)だという。

「『トトロ』は、小さい子どもや、その親世代の人が主な視聴層ですよね。そして『トトロ』は1988年に公開された作品ですから、ほとんど親が1度は見たことがある。面白いことを知っているし、子どもに刺激が強いグロテスクなシーンや、お色気シーンもないことも分かっているから、親は安心して自分の子どもに見せることができますよね。

 そして、毎回高視聴率が取れる理由として、業界内では“アンパンマン効果”と言われるものに『トトロ』も合致しているところがあり、それが要因と考えられます」

「アンパンマン効果」とは、言わずと知れた子ども向け大人気アニメ『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)に由来する言葉。

『アンパンマン』は毎回、話のフォーマットが確立されているが、1988年から現在まで人気が衰えることなく、ずっと人気を維持し続けている。これと同じ”効果”が『トトロ』にも当てはまるという。

「『アンパンマン』のメイン視聴層は主に2~4歳くらいの未就学児ですが、彼らが成長して『アンパンマン』を卒業しても、その頃には、次の世代が『アンパンマン』を観るようになる。視聴者が毎年入れ替わって循環し続けているから、いつまでも数字が取れるという現象です」

 国民的人気を誇る『ドラえもん』(テレビ朝日系)や、クリスマス映画の『ホーム・アローン』シリーズ(1990~)など、いつの時代も一定の年齢層に刺さるコンテンツがある。それらも“アンパンマン効果”が働いている考えられるという。

「そして、まさに『トトロ』がそれですよね。“アンパンマン効果”で、いつの時代も子ども世代やその親世代が『トトロ』を見ることになるのではないでしょうか」

 一方、『ラピュタ』のリアルタイム視聴率が驚異的に高い理由――それは、あの言葉が大いに関係しているようだ。

※画像は『金曜ロードショー』の公式X『@kinro_ntv』より

「物語が面白いのは大前提ですが、『ラピュタ』と言えばやはり“バルス”ですよね。放送の度にネットは大盛り上がりになりますが、今回も話題になりましたね」

「バルス」とは、『ラピュタ』のクライマックスで登場する滅びの言葉。X(旧ツイッター)では、劇中で主人公のパズーとヒロインのシータが「バルス!」と叫ぶのと同時に、一斉に《バルス!》とポストする《バルス祭り》が定着していて、今回もトレンド入りを果たした。

 ちなみに、ムスカ大佐――寺田農さん(享年81)の怪演による強烈なインパクトから大人気の、悪役による名言・迷言の数々も、似た流れで一斉に投稿される傾向にある。今回の『ラピュタ』は、寺田さんが今年3月に亡くなくなられてから初の放送でもあるため、寺田さんの名前もトレンド入りしていた。

「“バルス祭り”が良い例ですが、とにかくリアルタイムでXが盛り上がっていて、それに参加する人も多いと。一人暮らしで一人で観ている人でも、SNSを通じて、まるで友達や家族と『ラピュタ』を楽しんでいるような気分、一体感があると思われます。リアルタイムで視聴することでの別の面白さがある――それが『ラピュタ』の驚異的な高視聴率につながっているのではないでしょうか」

『トトロ』は視聴層の循環、『ラピュタ』はSNSとの相性の良さ――2つの異次元視聴率コンテンツの裏には、やはり理由があるようだ。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)