■飲食業界の閑散期を助ける「月見商戦」
月見といえば秋のイメージが強いが、一方で「月見商戦」はというと、24年はケンタッキーフライドチキンが8月29日から、ロッテリアは同30日からと、秋というにはほど遠い猛暑が続く8月末からスタートしている。これにも理由があるという。前出の岩崎氏が解説する。
「飲食業界では一般的に、8月の中頃から9月にかけて売り上げが下がり気味になります。10月頃から秋の食材が出始め、そうした食材を使った商品で売り上げを回復させ、12月の超繁忙期へと向かう。月見メニューは秋食材が出るまでの“つなぎ”にピッタリなわけです。
また、月見メニューはマクドナルドの『月見バーガー』に代表されるようにたまごを使ったものが中心ですが、鶏卵の供給が安定してくるのが9月なのでマクドナルドのような大規模チェーンでもメニューに取り入れやすい。各社が積極的に月見メニューを展開する背景には、こうした理由も大きく影響しているはずです」(岩崎氏)
人気で売れるうえに、食材の確保も難しくない。となれば、期間限定ではなく、通年販売のレギュラー商品にしてもよさそうなものだが――。
「やっぱり日本人は期間限定に弱いんですよ。コンサルティングの現場で私がよく話しているのは、“今だけ、ここだけ、あなただけ”。この3つのキーワードはとにかく“鉄板”です。“今だけ”、つまり期間限定販売にしたほうが、結果的に話題になりやすく、情報も爆発的に拡散されやすい。そしてこうした季節限定メニューが来店の動機となり、他の商品の購入にもつながるんです。
通年で販売しても、売れることは売れると思います。ただ先ほど話したように、夏から秋にかけてはどうしても飲食は売り上げが落ち込みやすい時期で、ここの落ち込みが大きくなると、なかなか元に戻せない。なので、この時期の落ち込みをカバーすることはとても重要ですし、ここで勢いをつけて秋から冬にかけての山をどれだけ大きくできるかという観点からも、月見メニューを期間限定にすることには大きな意味があるわけです」(前同)
多くの飲食企業が続々と参入し、「月見商戦」が過熱するのには、ただ「売れる」という以上の理由があった。温暖化の影響で、四季の移り変わりも感じづらくなった昨今だが、月見メニューは失われつつある季節感を演出するものとして、ますます日本人に愛される季節食品となりそうだ。
岩崎剛幸
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。著書に『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)
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