木々が生い茂り、薄暗い雰囲気が漂う富士山麓の青木ヶ原樹海。連日猛暑日が続いた真夏から一転、徐々に気温が下がるこれからの季節はハイキングコースとしても人気を博す。豊かな森が広がり、ツキノワグマやニホンザル、ニホンカモシカも暮らす一帯は、夜になると別の顔を持つことで知られる。
「人妻と青年検事の恋愛を描いた松本清張さんの小説『波の塔』(光文社)の舞台になった青木ヶ原樹海は毎年、自殺者が多く出ることでも知られていますよね」(夕刊紙記者)
現に青木ヶ原樹海がある山梨県では、人口10万人あたりの自殺者数を示す自殺死亡率が2022年と23年の2年連続で全国ワースト。
「昨年は県内で215人の自殺者が確認され、その内県外在住者が全体の2割以上の51人でした。残念ながら山梨県は長年、県内の自殺者数が多い状況です」(前同)
地元の自治体も状況を改善しようと対策に乗り出していたそうだ。山梨県・県健康増進課の知見圭子課長が話す。
「樹海が広がる富士河口湖町と鳴沢村では10年から、3名の警備員による日中声掛けパトロールを行なってきました。道端で少し様子が気になる方がいれば話し掛け、必要に応じて警察に引き渡す様な活動です」(知見課長)
しかし、パトロール隊が声掛けを行なった人の中には昼間は樹海周辺を下見するだけで、人気がなくなった夜になると森の中へと足を踏み入れる者も少なくなかったそうだ。以来、県の担当者の間では日が沈んだ夜間のパトロール活動の必要性が議論されるようになる。
「ただし、夜間のパトロールは担当者の負担も大きい。また、日が沈んでいるわけですから広範囲を捜索するのは不可能です」(前同)
そこで県が考え出したのはドローンを活用したパトロール方法だ。
「樹海周辺を夜間に飛び回る全長30センチから40センチほどのドローンが赤外線カメラで熱を感知。人を発見すると、その場にスピーカーを積んだもう1台の全長1メートルほどのドローンが飛んで行きます。夜間に樹海の中へ入っていきそうな人に向けて、刺激しないようにドローンが“山梨県です。今、何かお探しですか?”と声を掛ける。続けて“お困りのことがあれば手を振るなど合図をしてください”という形で続けます」(同)