■付加価値の高いコラボ商品を積極的に投入し、ミスドファン以外にも訴求
看板メニューの価格が50円近く上昇しようとも、客離れが起きない『ミスタードーナツ』。その商品展開の魅力はどこにあるのか。2023年にTBS系『マツコの知らない世界』でドーナツの魅力を語り、コンビニドーナツの監修も行なうドーナツ探求家の溝呂木一美氏が弊サイトの取材に応じ、説明してくれた。
「まず商品の数が単純に増えましたね。00年頃は年間30種ぐらいだったのが、ここ数年は60種ぐらいになりました。コラボメニューがとても増えたというのもあります。17年からは他社企業と共同開発する『misdo meets』が始まって、宇治抹茶の『祇園辻利』とのコラボ商品を第1弾として発売しましたが、この頃からコラボメニューにも力を入れていたように思いますね」(溝呂木氏)
近年は、季節ごとのコラボがローテーション化しているという。
「年末年始にポケモンとのコラボをやって、バレンタインには有名パティスリーやパティシエとのコラボでチョコレートの商品を出して、春になると桜餅だったり、『祇園辻利』コラボの抹茶の季節商品が……といった感じですね。大型コラボの合間にもいろいろな商品が期間限定で登場するので、目が離せません」(前同)
なかでもとくに消費者からの反響が大きいのはバレンタインのコラボ商品のようだ。
「18年に鎧塚俊彦シェフと共同開発した『ショコラコレクション』に始まり、ピエール・エルメ、ピエール・マルコリーニ、ヴィタメールと、有名パティシエやパティスリーブランドとのコラボが続いていて、ドーナツ好きだけでなくチョコレート好きからも熱い視線が向けられています。しかも24年はあの『ゴディバ』とコラボ。やはり知名度が抜群に高いので、かなり盛り上がりました」(同)
付加価値が高く、反響も大きいコラボ商品で世間からの注目を集める。その一方で、熱心なミスドファンもたびたび足を運びたくなる施策を行なっているという。
「飽きのこない商品作りなのはもちろんですが、定期的にリニューアルも行なわれていて、定番の商品も常にブラッシュアップされている。店舗へ足を運ぶたびに、ここが変わった、また美味しくなった、といった発見があるんですね。
また、10年ほど前から“ファンシードーナツ”というものが出ていて、これは期間限定商品のための原材料が余った際、無駄にならないよう、その余った材料でつくる特別なメニュー。22年初めに“青いポン・デ・リング”がSNSでバズりましたが、これもポケモンコラボで青いキャラクターを表現するときに使った材料を転用したもの。不定期の販売ですし、余った材料でメニューを考案するという性質上、2度と出合えないだろうレアな商品になります。
今日は知らないドーナツがあるかもしれない、というサプライズが待ち構えているのも、コアなファンにとってはお店に行く楽しみのひとつになっているんです」(同)
日本でドーナツといえばミスタードーナツ……という認知度の高さにあぐらをかかず、積極的な新商品投入でファン以外にも訴求しつつ、ファンの心を掴んで離さない取り組みも粛々と続ける。業績がV字回復した背景にはそれ相応の企業努力があったわけだ。「第5次ドーナツブーム」が去ろうとも、「ミスドの人気は不動」のままとなりそうだ。
溝呂木一美
イラストレーター、ドーナツ研究家。いろいろ制作ユニット「スタジオ・ソラリス」所属。2014年頃からドーナツの食べ歩き・研究をスタート。以来、国内外で年間500種類以上のドーナツを食し、自身のブログや各種SNS、またTVやラジオ、雑誌、Webメディア等でも情報を発信。著書に『私のてきとうなお菓子作り』(ワニブックス)、『ドーナツのしあわせ 年間500種類食べる“ドーナツ探求家”の偏愛ノート』(イースト・プレス)、『ドーナツの旅』(グラフィック社)。