■朝食は味のないラーメンが週に5回、おかずは同じ野菜が1週間

 15年には看守所があった珠海と同じ広東省にある東莞(とうかん)刑務所へ移送されたトミオ氏。そこでも金の力を目の当たりにすることとなる。

「朝飯は味のないラーメンが週に5回。昼と夜はご飯はお代わりし放題ですが、おかずは茹でた野菜1品のみ。しかも、近所の農家から野菜を買い叩いているからか、1週間同じ野菜のおかずが続く。食えたもんじゃないから、自分で金を出してザーサイやチャーシュー、水餃子、ラーメンに付けるケチャップなんかのおかずや調味料を刑務所内で買うんだけど、金がないとおかずも買えない。組の人間が年に3回、10万円ほど差し入れてくれたお金が本当にありがたくって……。なんとか生活できましたね」

 一方で、心が折れそうになる出来事にも度々、直面したという。

「反日教育が凄いでしょう。刑務所のテレビで流れる映画やドラマを見ていても悪役はトヨタや日産、マツダといった日本車に乗っているくらいです。自分が頼んだおかずが同じ房の中国人に勝手に食われているなんてことも珍しくなかった。俺の場合は金があったから同じ房の人間にタバコを配って仲間にしたけど、それができなかったら相当いじめられていたかもしれない」

 それでも楽しい思い出もあるそうだ。

「刑務所内でのカラオケ大会に出場しました。歌ったのはテレサ・テンの『時の流れに身をまかせ』。この時には中国語も話せるようになったので1番を中国語で、2番を日本語で歌ったら大ウケ。優勝しまして、タバコ2カートンに即席ラーメン2箱、リンゴも2箱もらいました」

 羽田空港から地元の横浜へと向かう車の中で、「納豆が食べたい」と組の若い衆に漏らしたというトミオ氏。

 異国の地で一人孤独に長年“粘った”甲斐があったか。