■『VIVANT』で学んだ妥協しない姿勢

 まさに玉森の新境地。しかしこのクズっぷりを輝かせたのは、奈緒の演技によるところも大きい。地味だけど俗っぽさもあったりと、妙なリアリティを見事に表現。ほこ美(奈緒)は結婚式直前に新郎に逃げられたり、海里(玉森)を殴るためにジムに入会したりと、かなり荒唐無稽なキャラなのだが、今どきの女性のリアルな部分も絶妙にあり、親近感すらある。

 その親近感があるからこそ、海里(玉森)のクズさが光る。一方、海里も、クズの中にさりげない優しさや、ワケアリ感をしっかり出していて、ただのクズ男では終わらなさそうだ。沼らせ男を演じる玉森は、視聴者から早くも「沼森」と呼ばれ始めているが、この2人であれば、その沼はさらに拡大することは確実だ。

 一方、番組公式サイトのインタビューで、プロデューサーの戸村光来氏が脚本作りについて、1話分だけで半年以上の時間をかけ、何十回も修正を重ねたと語っている。前半のドタバタ劇からロマンスを予感させ、ボクシング、3回のキスシーン、玉森のシャワー姿のサービスシーンと、てんこ盛りながらスムーズに見られたのは、そのおかげだろう。

 また、戸村氏は、社会現象になった日曜劇場『VIVANT』(同局系)で、ADとして制作チームに参加していて、モンゴルロケを成立させるために試行錯誤していたという。そこで学んだ“妥協しないものづくりへの姿勢”をずっと意識していると語っているが、ラブコメでもその姿勢は変わらないはずだ。大いに期待できる。

 次回、ほこ美は海里を殴るため、羽根木ボクシングジムに入会するが、海里とジムの会長には、誰にも言えない過去があることが描かれる。玉森の新境地となるクズ男の演技が、異色のクズきゅんラブコメディを、前期『西園寺さんは家事をしない』に続くヒットに導きそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。