■安達祐実の覚悟と覚醒

 スリリングかつテンポの良い展開は、細部を客観的に煮詰めていくことができる脚本複数体制のたまものだろう。通常は知らない者同士が組まされる闇バイトの蒲池と長田がコンビになっていたり、プレゼントのフライパンが都合良く凶器になるなど、ところどころ、ご都合主義な展開が見られるが、それもさほど気にならない。これも、脚本が良く出来ているからこそだ。

 さらに、安達、青木の緩急ある演技も素晴らしい。青木演じる義光の、いかにもヘタを打ちそうなキャラもいいサジ加減だが、なにしろ安達演じる、普通の主婦から犯罪の共犯者へと転落していく、祐子のキャラが非日常的なのに妙にリアルだ。息子に正論を解く生真面目さと、ちょっとの欲の塩梅が絶妙に人間くさいのだ。

 Xでも《安達祐実が、まだ自分なりの倫理観の側に踏みとどまってるつもりでいながら、地獄のデスロードを突っ走って、アクセルを踏みまくってる感じがたまらない》《息子に放った「謝ってもやり直せない」という言葉が、祐子自身に返ってきてしまうのが面白い》などと、称賛の声も多い。

 安達はここ数年、ドラマ出演が増えていて、21年NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』でワガママな大御所女優、今年7月期『ビリオン✕スクール』(ともにフジテレビ系)でAI教師などと、役柄の幅も広い。キャリア30年を超えて、さらなる進化を見せているが、中でも今回の祐子役では突き抜けた演技を見せていて、まさに覚醒した感じだ。

 本作の出演者会見で安達は、NHKドラマで主演することについて、「これが人生最後かもしれない」と思っているとコメントしているが、それだけ気合いが入っているということだろう。人生最後どころか、本作の主演によって、新たな主演のオファーがNHKにとどまらず各局から来そうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。