■『嘘解きレトリック』は普通で新しい

 その理由は、なによりも丁寧な作りだろう。X上で《伏線の張り方と回収が気持ち良いのです。良い意味でのキレイな流れの起承転結がステキ。無駄がない。キチンとつくられているのが伝わります》という声があるように、本作はセットも含め、実に丁寧に作られている。大きな事件こそないが、見ていて心地よく、満足度が高い。

 また、原作の世界観を改変しつつも、うまく表現している。こちらもX上に原作ファンから《出演者の演技が上手いので行間が埋まるし、原作のコマの隅に描いてあるようなちょっとしたシーンも、できる限り再現する気概を感じられる》などの声があるように、スタッフの熱もさることながら、キャストの演技も巧みで、ほぼ異世界な舞台設定でもすんなり入れる。

 これまで月9はギミック(興味を引かせるための仕掛け)をしっかり入れ込んだ話題作が多かった。『海のはじまり』は主演・目黒蓮(27)、脚本・生方美久の大ヒット作『silent』コンビと、延々と続く鬱展開。『366日』では眞栄田郷敦(24)が記憶をなくすところから始まる変化球の設定。

 さらに、『君が心をくれたから』は主人公が五感を失くしていく残酷展開。一方、本作は昭和初期が舞台で、ヒロインが特殊な能力を持っているものの、やり過ぎている感はなく、本筋のミステリーや人情劇はきわめて正統派。悪く言えば地味だ。そんなギミックのない誠実な作りで、ここまで評価を受けた意義は大きい。華よりも実を取る、新しい月9のありかたを示したといえる。

 序盤の3話で原作コミックが持つキャラの魅力や、その世界観を丁寧に描写したうえで、次回は2話にわたっての本格ミステリー展開。これも視聴者にとって、親切な流れだ。鍵となる人物を演じるのは、NHK朝ドラ『虎に翼』で赤いミサンガの美少女、美佐江を演じた片岡凜(21)と、話題性も高い。今後、さらに評価を上げることは間違いないだろう。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。