■日本での知名度が低い意外な理由とは

 たしかに海外のスポーツ中継を見ていると「FUNAI」という広告が目に飛び込むことがある。

 たとえば、大リーグのボストン・レッドソックスやロサンゼルス・エンゼルスと船井電機はパートナー契約を結んでいた。

 しかし、そこまで海外でメジャーなメーカーなのに、なぜ日本での知名度がイマイチなのか?

「ずっと黒子に徹していた会社だったんです。自社ではなく他社ブランドの製品を製造する『OEM』という概念がありまして、船井はこれがめっぽう強かった。たとえばソニー製品だったら、ソニーが開発して、ソニーが製造して、ソニーが販売しますよね。船井の場合はフィリップスなどのブランド名をつけた状態で店頭に並ぶわけですよ。たとえばレックスマークというアメリカのプリンター会社があって、ここは全米で天下を獲った時期があるんですけど、それも実質的には船井が全部作って、最後にレックスマークという社名を入れて販売していました」

 「世界のFUNAI」の勢いは止まらなかった。1951年にミシンの卸問屋からスタートアップした創業者・船井哲良氏は、日本人で初めて米フォーブスの長者番付に載ることになる。

 だが、一方で日本国内のシェアが伸び悩んだのも事実。ここには意外な理由も隠されていたようだ。

「営業力が少し弱かったんですよね。電機メーカーとしての船井は60年代のトランジスターラジオから始まっているんですけど、この段階で量販店にうまく売り込めなかった。その代わりに船井製品はスーパーとかの端っこで売られていて、なんだか得体の知れない格安メーカーというイメージが定着してしまったんです。日本人はブランド信仰が強いから、こうなると“安かろう、悪かろう”のイメージを払拭するのは難しい」

 現在、50代以上の方は空前のラジカセブームを覚えているはずだ。各メーカーが“倍速ダビング”“重低音”など多機能に進化していくのを横目に、船井製品はとびきり廉価で庶民の財布にも優しかった。

 激安ビデオデッキも「機能はシンプルだったものの、製品の質は決して悪くなかった」という声は多い。

「今は“ジェネリック家電”といって、機能を削ぎ落した商品が注目されるようになっているんです。船井もこの流れにうまく乗れたらよかったんですけどね。10年代に入ってサムスン、LG、TCLといった韓国や中国の製品に押されるようになってからは、OEMだけでなくFUNAIという自社ブランドにも力を入れるようになったんですが…。17年からはヤマダ電機(現・ヤマダホールディングス)とタッグを組んで大々的に展開しましたが、 “時すでに遅し”だったのかもしれません」

 最後の最後までVHSデッキを製造・販売し続けるなど、家電メーカーとしての信念を持っていた船井電機の功績は大きい。

 今後の逆転劇があるのか、注目が集まっている――。

たろっさ
20歳から家電量販店で働き、年間2億円、11年で25億円を売り上げた実績を持つ。現在では家電アドバイザーの資格を生かし、各種メディアで家電に関する記事を監修、執筆する他、自身が運営するWEBサイト『家電損をしない買い方をプロの販売員が教えます』で最新家電や家電を安く買うコツを発信している。