■明確な意思があった『西園寺さんは家事をしない』
まわりの援助を受けながら、シングルファザーとして育てるという、凡庸なオチに終わった『海のはじまり』。その一方で『西園寺さんは家事をしない』は、新しい家族のスタイルを見せてくれた。
最終回では、西園寺（松本）、楠見（松村北斗／２９）と娘・ルカ（倉田瑛茉／４）の３人が、笑顔で海外へ旅立っていった。法律上は家族ではないが、形にとらわれず、みんなが幸せになる考え方を見せてくれ、それは、恋のライバルだった横井（津田健次郎／５３）も同様だった。
最初から最後まで、ルカファーストで動いていた西園寺と楠見。これまでのドラマなら、血の繋がらない親子の話となると、親と子の葛藤や周囲の無理解など、どうしても暗い話になりがちだが、『西園寺さんは家事をしない』は常に明るく、ポジティブに新しい家族の形を模索していた。
また、ルカや西園寺、楠見だけでなく、当て馬であるはずの横井も、いつの間にか“偽家族”の一員になるという、ご都合主義を軽やかに超えた、前向きでハッピーな展開。誰もが救われるオチであり、新しい家族の形を示したことが、視聴者の満足度につながったのだろう。
夏ドラマの中で話題になった２作。『西園寺さんは家事をしない』は《大人が生活の中で恋愛をするドラマとして満点すぎ》などと絶賛され、『海のはじまり』が《感動ストーリーになったけど、見るのしんどかった》などとブーイングが起きたのは、「救いの描き方」で訴えるものがだいぶ違ったからだろう。（ドラマライター・ヤマカワ）
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、ＮＨＫの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。
