■タワレコが業績を伸ばせた理由

 同じく、ミスタードーナツも創業者はアメリカ人だが、本国では個人商店として営業を続けるイリノイ州の1店だけしか残されていない。ドーナツ屋なのに飲茶を販売するなど、日本の“ミスド”はダスキン傘下で、消費者ニーズに合わせて進化・発展を遂げてきた。

「最初は、単にドーナツを売るだけの店でしたが、そこから方針転換し、カフェとしても使える店にシフトチェンジしたのが成功の理由だと思います。

 日本には、西洋のように街の中心にある噴水広場で軽食をとりながら休むといった習慣はありません。ただ、代わりに昭和の時代から喫茶店の文化が根強くある。そのカフェ需要にうまく乗れたんですよね」 

 一方、アメリカ・タワーレコードが倒産し、米国国内の全店舗が消滅したのは2006年のこと。
対して、日本法人のタワーレコード株式会社はその前に独立を果たし、24年に前期比85・5%増の18億8300万円と増益を達成。CD不況が叫ばれて久しい中、過去最高益を記録したというのだから感嘆に値する。

「現在の社長が就任して以降、オンライン事業に力を入れ、それが成長を遂げてきたことと、一方店舗では、“推し活”需要にフォーカスした戦略がズバリ当たった格好です。インストアイベントを積極的に行うなど、“リアルな空間”という点に徹底的にこだわったんですね。

 そのジャンルに詳しい店員による、熱量のある手書きPOPなども、ファンのニーズに刺さった。店員も一丸となってアーティストを応援しているため、自分が好きなアーティストやジャンルの音楽を楽しむことができるエンターテイメント性が生まれ、推し活スペースとして心地いい空間が形成されているんです」

 アメリカ本土のトイザらスが経営破綻したのは、18年のこと。日本法人の「日本トイザらス」は、1989年に実業家・藤田田が中心になって設立された。

「日本マクドナルドを見たら分かるように、藤田さんはローカライズの天才です。日本型の店舗構造にして、郊外型のファミリー層に支持されている。
日本は敗戦国だから、戦後はアメリカに対する憧れの感情が強く残っていました。レディーボーデンはその最たる例です。

 でも、もはや“アメリカ発のものだからカッコいい”という価値観はとっくに消えてしまったわけですよ。生き残っているブランドはローカライズを着実に成し遂げている。今後は、その傾向がより顕著になるでしょう」

 各社のさらなる進化に期待したい。

谷頭和希(たにがしら・かずき)
都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材等を精力的に行う。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、さまざまなメディア・雑誌にて記事・取材を手掛ける。