■若手のフリーディレクターからギャラを下げられる……
テレビ各局の特番などではオンエア後に、正式にギャラが決まることが常態化しているという。
「受けた仕事に何も問題はないのに、番組の別のところで出費がかさんだから、といった理由でギャラが減らされてしまうことがよくあるといいます。これでは生活していけませんよね。
被害が特に顕著なのが、若いフリーのディレクターだと言われています。具体的なギャラはオンエア後に提示されるのですが、最終的に予算オーバーとなってしまった際には、外注の、それも若手ディレクターからギャラが下げられることになると。実績のあるベテランディレクターにギャラを削る相談はできませんからね。
その際、若手ディレクターは、難色を示したら次から声をかけてもらえなくなる、と思ってしまう。だから、文句を言えないんです。相場以下のギャラで買いたたかれ、条件が悪くても飲まざるを得ない。
今、不況のテレビ界でこうしたケースが増加しているわけですが、スポンサーが撤退しているフジテレビの番組では、大幅に制作費が減らされる可能性が高いですよね。
今後、フジテレビの番組での制作会社、そしてフリーディレクターに払われるギャラは酷いことになるのではないか、と心配されています。フジテレビの社員も大変でしょうが、それ以上に制作会社やフリーのプロデューサー、ディレクターは“もう明日が見えない”と嘆き、戦々恐々としていますよ」(前出の芸能プロ幹部)
■フリーランス新法を詳しく解説
長引く“テレビ不況”のなかで、増えてきているという“フリー”への酷い扱い。前述のフリーディレクターのケースでは、法律的にはどんな問題が生じるのだろうか。弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士に聞いた。
「オンエア後、番組プロデューサーが、さまざまな経費がかかってしまい、番組制作費が厳しくなり、通常は40万円のところ30万円にしてほしい、と言ってきたことは、フリーランス新法(正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)に違反して、違法です。
まず最初に、フリーランス新法は、一人で仕事をしている人を守る法律です。人を雇わず一人で仕事をしているのであれば、会社にしていても、個人のままにしていても守られます。フリーディレクターの方は一人で仕事をしているので、フリーランス新法で守られます」
正木弁護士は続ける。
「次に、フリーランス新法は、フリーランスの方が引き受ける仕事の種類を決めています。このフリーディレクターの方はキー局の特番を制作したということで、フリーランス新法の『映画、放送番組その他映像又は音声その他の音響により構成される情報成果物の作成』に当たります。仕事の報酬について、番組プロデューサーとフリーディレクターの方との間にこのくらいの仕事だと40万円という共通認識があったのですから、報酬について合意(法律的には『黙示の合意』)があったといえます。
それでここからがポイントです。フリーランス新法第5条第1項第2号には『特定受託事業者(フリーランスのこと)の責めに帰すべき事由がないのに、報酬を減じること』を禁止すると決められています。『責めに帰すべき事由がない』とは“フリーランスが悪くないのに”ということです。
番組プロデューサーは、“さまざまな経費がかかってしまい、番組制作費が厳しくなり”と言っていますが、それはフリーディレクターの方には関係のない話、フリーディレクターの方が悪かったことではありません。フリーランス新法は、“経費がかかり、番組制作費が厳しい”というフリーディレクターの方に関係のないことでフリーディレクターの方の報酬を減らすことを禁止しているわけです。
ですから、番組プロデューサーが、通常は40万円のところを30万円にしてほしい、と言ってきたことは、フリーランス新法に違反し、違法ということになります。フリーディレクターの方が、それは飲めない、今はフリーランス新法もありまずいのではないかと言われたことは、適切な対応をされたと考えます」
さらに正木弁護士は、テレビ界ほかでまだ行なわれているギャラの後交渉についてもこう話す。
「ギャラの後交渉について、そもそも報酬を定めていない場合、フリーランス新法では原則、業務委託事業者(テレビ局)は、特定受託事業者(フリーディレクター)に対し業務委託をした場合は、直ちに取引条件(給付の内容、報酬の額、支払期日等)を書面または電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならないと定めています。そのため、ギャラの後交渉は取引条件を明示しておらず、違法となる可能性があります。
仕事の内容が定まらないといったケースも考えられますが、テレビ局側の都合などで特定受託事業者を不安定な状態に置くことは、正当な理由がなく、認められないでしょう。
書面等は契約書等の形式にかかわらないので、報酬を含めた取引条件に関する共通見解があった場合、共通見解がメール等で明示されていた場合、適法となるケースもあり得ますが、口約束や慣例などだけでは違法となります」
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今、フジテレビは危機的状況にあるが、国民の“テレビ離れ”による業界の不況は以前からのもので、ますます深刻化している。そのしわ寄せを受けているのは、テレビ局から依頼を受け、実際に番組を制作している制作会社の社員やフリーのプロデューサー、ディレクターたちなのだ。この状況下で今、テレビ制作の担い手たちは、次々と業界を離れる動きを見せているという。テレビ界は今、大きな変革が求められている、と言えそうだ。
正木絢生(まさき・けんしょう) 弁護士
弁護士法人ユア・エース代表。第二東京弁護士会所属。消費者トラブルや借金・離婚・労働問題・相続・交通事故など民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。
BAYFM『ゆっきーのCan Can do it!』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などメディア出演も多数。YouTubeやTikTokの「マサッキー弁護士チャンネル」にて、法律やお金のことをわかりやすく解説、配信中。
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