■さまざまな歩行者にティッシュを渡す

  次に挑戦したのはティッシュ配り。質屋の高価買取キャンペーンを知らせるポケットティッシュを道行く人に手渡す、時給1170円、2時間半の仕事だ。

 指定された場所は、杉並区の商店街にある質屋。バッグや宝石、古銭などを買い取ると書かれた看板をくぐって店に入ると、30代前半の恰幅の良い男性が待ち構えていた。彼は店長で、一人で、この店を切り盛りしているのだという。

 この日は記者の他に、60代とおぼしき小柄な女性が一緒に働くことに。彼女はすでに、この仕事は3回目だそうで、いわば先輩だ。

 店長からポケットティッシュが約500個入っている袋を一人ずつ手渡された。

 指示された人通りの多い駅前に向かいながら、先輩の女性に、他にもスキマバイトをしているのか聞いてみた。

「私はスーパーの品出しが多いかしら。人気の仕事はすぐに応募者が殺到して締め切られちゃうので、お目当ての仕事には入れないこともあるのよ」

 通行人の邪魔にならないことや、営業中の店の前には立たないことを、店長から事前に注意されていた。先輩とは道路を挟んで二手に別れ、いよいよティッシュ配り開始。

 サラリーマンから水商売風の女性まで多種多様の歩行者の中には、笑顔でティッシュを受け取ってくれる人もいれば、足早に通り過ぎていく人もいる。

 約1時間後、道の向こうの先輩が声をかけてきた。

「ティッシュがなくなったので、少し分けて」

 驚愕した。彼女が配った量は、記者の3倍くらいになるのだ。恥を忍んで配り方のコツを聞くと、親切に教えてくれた。

「相手の目をじっと見て、こちらの存在を相手に知らせるのと、ギリギリまで引っ込めずに相手の前にティッシュを出しておくと取ってくれることが増えます」

 実践してみると、受け取ってもらえる確率が上がった。順調に袋の中身は減り、業務終了30分前には、お互い、手持ちのティッシュはなくなっていた。

「誰かが見張っているわけでもないし、時間まで、ゆっくりしましょうか」

 と、先輩が言う。仕事は出来高ではなく時給だが、ノルマは達成していたため、業務終了まで配っているふりをして過ごした。そんな気楽なところもスキマバイトの魅力の一つなのだ。

 時間の経過は長く感じたが、終わってみると体の疲労は感じない。この後に、別の仕事があっても問題なくこなせるだろう。(取材:久保純)

藤木俊明(ふじき・としあき)
シニア起業ジャーナリスト、副業評論家、コンテンツ・メイカー。
早稲田大学卒業後、リクルート、ぴあを経て、現在は有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。