「コロナ禍を機に、同棲していた彼女が陰謀論者になってしまって……」

 そう話すのは、メディア業界に勤務するAさんだ。同棲していた彼女が陰謀論へとハマったきっかけは、コロナ禍のこと。テレビで報じられる内容に対して半信半疑になったAさんの彼女は、ネットやSNSを中心に情報収集をするようになったという。そこで出会った情報ばかりを妄信するようになっていったそうだ。そんな彼女とともに暮らす中でAさんの生活にも変化が生じ始めたという。

「彼女は人付き合いも、次第にSNSを介して知り合った“界隈”の人たちばかりになっていきました。僕も定期的に会っていたのですが、僕が少しでも懐疑的な見解を示すと、皆さん、口癖のように“氣づいてないの?”と言うんです。“気”じゃなくて、必ず“氣”の字を使うんです。音だと同じ“キ”ですが、彼女の中では違うんです」(以下「」はAさん)

 さまざまな場面で、“氣”に対する異様なこだわりがあったそうで、飲食店などに行っても、「この店の氣が良くない」という理由から退店することも日常茶飯事だったという。

「僕が出張で家を不在にして帰宅したら、家の四方八方に盛り塩がされていました。“どうしたの?”と彼女に聞くと、SNSで知り合った人から氣が悪いところには塩と日本酒が効くと教わったらしくて。その日から、お風呂に入るときは、浴槽のお湯に塩と日本酒を入れるようにもなりました(苦笑)」

 体に良くないからと電磁波の出る家電(電子レンジなど)は捨てられ、Wi-Fiも解約。代わりに、塩と日本酒が鎮座するようになった。Aさんは「彼女が心身に悪影響をもたらすと信じているものは捨られ、スピリチュアルなものが増えていった」と語るが、生活は激変したという。しまいには、「この家は氣が悪いから引っ越したい」と切り出されたが、さすがにそれは固辞し、浴槽のお湯に、塩と日本酒を入れ続けることで妥協してもらった。

「彼女はヴィーガンのような生活スタイルにも変わったので、2人でご飯を食べるときは肉は食べられませんでした。僕が外出先で1人で肉を食べて帰ってくると、“肉食べたでしょ”って氣づくくらい敏感。ですから、出張などで1~2日会わない条件のときしか、僕は肉を食べられない。このときに食べるマックのハンバーガーが、今まで食べてきたどんな食事よりも美味かった。背徳感がトッピングされているので、信じられないくらい美味いんです」

 隠れキリシタンならぬ“隠れマック”とは――当事者であるAさんの負担は相当だったはずだ。「別れたいとは思わなかったのか?」と聞くと、「彼女が好きだったので、そういう決断にはいたらなかった」と笑う。この動じない明るさがAさんの魅力であると同時に、イレギュラーな考え方を持つようになった彼女ともうまくやっていけた秘訣なのかもしれない。

「すべてがおかしい行動だとは一概に言えなかったこともあります。例えば、自然由来のものを使うようになったため、シャンプーやリンスなども使わず、僕と彼女は“湯シャン”でした。最初の1か月はシャンプーに慣れていたから油分が残って頭皮が臭い。ですが、その期間を過ぎると髪がふんわりして調子が良かった。数多の主張の中には、信じるに値するものもあったので、彼女を全否定することはなかったです」