■オールドメディア勤務はダサいと揶揄され…
一方で、Aさんは彼女から“オールドメディア”と揶揄されるような会社に勤務していた。「ネットの情報を信じている彼女は、真実を届けない僕らの仕事を“ダサい”と話していた。悔しかったし、そんなことはないと気が付かせたいという思いもあった」と、当時の思いを吐露する。
交際期間は約3年。別れる契機となったのは、彼女が「もう日本には住めない」と海外移住を決断したからだった。
「自分の仕事に誇りを持っていたので、さすがに海外に付いていくことはできない。そう伝えたら、別れようと切り出されました。別れてからは、ダックダックゴー(利用者の保護をうたう検索エンジン=彼女にこれしか使うなと言われていた)も卒業したし、Wi-Fiを拾うためにセブンイレブンにも行かなくなりました。今は便利な生活を謳歌しています」(以下「」はAさん)
半面、「変わった考えを持つ彼女だったからこそ、楽しい時間でもあった」とポツリとこぼす。
「靴下や靴を脱いで、素足で直接大地に触れるアーシング(Earthing)という健康法があるのですが、体内に滞留した電気を放電させることができるという理由から彼女が好んでいました。“裸足Day”と題して、葛西臨海公園や等々力渓谷などで定期的に裸足になるデートをしていました。本当に気分が晴れるような感覚になるので、そういったことがなくなってしまったのはさびしいとも思っています。一人で公園で裸足になる勇気はありませんから」
海外へ移住した彼女は、渡航先で考え方を改めたらしく、「あのときはやりすぎだった」と自戒を込めて、Aさんにメッセージを送ってきたそうだ。環境が人を変えるというが、ネットやSNSだけを信じていれば、当然、同じ考え方の人としか付き合えない。逆に、オールドメディアだけを信じていれば、旧態依然とした世界から抜け出せなくなる。
「僕は彼女をきっかけに、その界隈の方とも交流していましたが、皆さん総じて、責任感が強い方が多いという印象を受けました。“今の社会を何とかしなければいけない”という思いを持っているからこそ、怪しい情報であっても信じてしまい、疑わなくなる。責任感や正義感自体は素敵なことだと思うので、やっぱりバランスですよね」
陰謀論を信じることが悪いのでない。どちらか一方の考え方にだけ傾倒するのではなく、様々な意見を取り入れて生活することが大切だということをAさんの体験から学ぶことができる。
Aさんが陰謀論を信じる彼女と出会ったきっかけやWi-Fiの使用を禁じられ、仕事のために奔走する様子は前編【「Googleは禁止」「電子レンジも捨てられて」……陰謀論にハマった彼女とマスメディア勤務の社員が過ごした3年間が凄かった】で伝える。
我妻 弘崇
1980年北海道帯広市生まれ。東京都目黒区で育つ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生(ピース、平成ノブシコブシ、ラフ・コントロールなど)として芸人活動を開始する。2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーランスのライターとなる。現在は、雑誌・WEB・広告問わず、幅広い媒体で執筆活動を展開している。著書に、 消費者目線でキャッシュレス社会の歩き方を提案した『お金のミライは僕たちが決める』、 働きながら旅に出かけ、その経験を日常・仕事にフィードバックさせるスタイルを掲揚した『週末バックパッカー』(ともに星海社新書)がある。