■『あんぱん』と『おむすび』の違い

 朝ドラ『おむすび』は、序盤戦に多く登場した“ギャル”が不評だったことに加えて、物語のダイジェスト感がかなり強く、メインであると思われた主人公が栄養士になるまでとなって以降があまり描かれないという“薄口シナリオ”の評判が悪く、視聴率は序盤から大苦戦。それまでの朝ドラ史上ワースト視聴率は倉科カナ(37)主演の『ウェルかめ』(09年度後期)の13.5%(全話平均の世帯視聴率/関東地区/ビデオリサーチ調べ)だったが、『おむすび』は13.1%と、ワースト記録を更新してしまったことで知られる。

「『おむすび』は、主人公の職業である栄養士だけでなく食事にまつわる描写、それを通じての人間ドラマなどが不足している、という声も多かったですね。

 その一方、『あんぱん』はまだ最序盤なのに“あんぱんを通じて人々が幸せになる”という描写や、人が思いを込めてパン作りをする工程が丁寧に描かれている。当然、視聴者も“『アンパンマン』の原点になりそう”と受け取るでしょうから、本筋から外れた感じもありません。結果、多くの視聴者がまだ序盤の『あんぱん』に『おむすび』以上に“深み”を感じているということでしょうね」(テレビ誌編集者)

 そんな『あんぱん』の視聴率は初回こそ『おむすび』よりも低かったが、第6話(4月5日放送)が15.5%(世帯視聴率/関東地区/ビデオリサーチ調べ)を記録したことで、前作『おむすび』の同回視聴率14.8%を上回り、放送開始からわずか1週間で『あんぱん』が『おむすび』を逆転する形となった。

 また、『あんぱん』初回(3月31日放送)は配信サービス・NHKプラスにおける歴代連続テレビ小説・大河ドラマ含む同局の全ドラマの中で、過去最多視聴数となる76.1万UB(※ウェブサイトを訪問した重複のないユーザー数)を記録したことも、4月9日発表された。ちなみにそれまでの1位は、現在放送中の横浜流星(28)主演の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の初回(1月5日放送)の72.8万UBだった。

 視聴率ワーストを更新してしまった『おむすび』と、まだ主演の今田美桜が登場していないのに数字も好調な『あんぱん』の違い――長年の朝ドラウォッチャーであるドラマライター・ヤマカワ氏はこう分析する。

「ヤムおじさんが作ったあんぱんを食べ、結太郎(加瀬)を失った朝田家が元気を取り戻していく展開にほっこりさせられました。『おむすび』でも、結の祖母・佳代(宮崎美子/66)がバーニャカウダでギャルたちに福岡県糸島の野菜を振る舞ってみんなが笑顔になったのに、今回の『あんぱん』のような好意的な反響は少なかった。それほどまでギャルに対する拒否感が強かったのかと、今さらながらに思い知らされます。

 ただ、あんぱんの原価計算の謎、崇が地元から高知まで10キロ超の道程を子どもの足で歩いてしまうなど、脚本にツッコミどころはあって、今のところギャルと違って好印象すぎる子役たちのエモさで押し切っていますが、次週からの青年編ではどうなのか、少々不安ではあります」

 今後、『あんぱん』はのぶ(今田)と嵩(北村)が成長してからは戦争の話や、嵩が漫画家になる話などが描かれると思われるが、今後も、視聴率ワーストという伝説を作ってしまった『おむすび』と比べられることはありそうだ。

ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。