■京都にある千年続く『あぶり餅』

 続いては、日本最古のビアホール「ビアホールライオン銀座7丁目店」。昭和9年(1934年)に開店し、空襲も奇跡的に免れ、今も創建当時の内装を残しています。登録有形文化財にも指定されたこの店の見どころは、250色以上のガラスモザイクを用いた壮麗な壁画。歴史的な建造物で味わう“一度注ぎ”の生ビールは、格別の喉越しです。

 そして、日本最古のラーメン店といえば、1912年創業の「大貫」(兵庫県尼崎市)。中華そばの源流とされる來々軒の味に感動した創業者が、中国人シェフと共に開発したラーメンを今も受け継いでいます。熟成されたタレと卵麺は、まさに原点にして至高。

「ラーメンは進化の激しい料理であり、トレンドも絶えず変化しますが、大貫は味の基礎を守りながら、柔軟に“深化”してきた印象です。麺やスープの味に歴史の積み重ねが染み込んでいて、一口ごとに時間を旅するような感覚に包まれます。老舗の味には、“何代にもわたる記憶”が隠されているんです」(前出のグルメサイト編集者)

 関東大震災や戦禍を乗り越え、東京最古の大衆酒場と言われているのが、1905年創業の「神田みますや」。白鷹の酒、牛煮込み、さくら刺し(馬刺し)、ドジョウの丸煮など、古き良き酒場料理が堪能できます。特に店内の手書きのお品書きには、店主の想いと歴史が詰まっています。

 京都の「本家尾張屋」の創業はなんと応仁の乱の前年の1465年。5段重ねの割子(わりご)蕎麦に8種の薬味を添えた「宝来そば」が名物。1段ごとにお好みで薬味を選び、自慢のだしをかけて味わいます。江戸時代には御所に納められるほどの格式高い蕎麦を提供し続ける、まさに食の文化遺産です。

 奈良の「つるべすし弥助」は創業1185年〜1189年とされ、800年以上の歴史を誇る日本最古の寿司店で、「アユずし」など、現代の寿司とは一線を画す伝統的な味が楽しめます。歌舞伎『義経千本桜』にも登場するほど、物語性のある店でもあります。

 ラストは京都の「一文字屋和輔(いちもんじやわすけ)」。創業はなんと西暦1000年。1000年以上作り続けている「あぶり餅」は保存料不使用。毎朝手作りの白味噌だれに、竹串で焼いたお餅をからめたこの一品は今もなお、神事の一環として提供されているそう。

「“千年の味”という言葉があるなら、一文字屋和輔の炙り餅がそれにふさわしいでしょう。食材はシンプル、製法も変えず、変えないことを守り続けてきた姿勢に胸を打たれます。平安時代から続く井戸水を今も使い続け、店を開ける前に神様に餅を供える日課。毎日の営みが積もり積もって千年になった。その積み重ねこそが、本物の伝統だと思います。老舗は時間の味わいであり、記憶の容器なのです」(前出のグルメサイト編集者)

 こうした“日本最古”の飲食店たちは、ただ長く続いているだけでなく、その背景には幾多の試練や変化への対応、そして不変の信念があります。これからも私たちの食文化を牽引し、語り継がれるべき存在として輝き続けることでしょう。

トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。