■ネパール人が日本で働くワケ

「“絶対に失敗できない”という必死さの表れといえます。自分なりのアレンジを加え、その結果、客が入らなくなったら目も当てられない。

 ネパール人経営者は8~10年ほど日本のインド料理店で働いたあとに独立するケースが多く、“これで日本人にウケているんだから、真似すれば間違いないだろう”と下積みを過ごすんです」(前出の室橋氏=以下同)

 出入国在留管理庁の発表によると、2024年末の段階で日本に滞在するネパール人の数は約23万人。その数は年々増加している。しかも、その大半がインドカレー屋で働く従業員と、その家族だという。

「国際競争力が上がった韓国人や中国人は日本を選ばなくなってきているので、そのぶん、ベトナムやネパール人留学生が増えたんです。ネパールという国は観光と農業のほかに主だった産業がない。そのため隣の大国・インドを含めて、“海外出稼ぎ”が一般的なんです」

 ビザ制度の改革もインネパ激増の要因の一つだという。

「外国人でも500万円投資すれば、経営・管理ビザを持てるようになりました。

 そこで、経営者となったネパール人が、親族や知り合いのネパール人をコックとして日本に呼ぶことで、ブローカーのような役割を果たす人も増えたんです」

 インドカレー屋のネパール人オーナーは、不退転の覚悟で臨んでいるのは間違いないだろう。値段が抑えられているのも、たゆまぬ経営努力の証といえる。

 最後に取材を通じて多数のインドカレー屋で食事してきたという室橋氏に“オススメのインパネ料理”を聞いてみた。

「メニューの中にネパール料理があったら、ぜひ注文してみてください。彼らも“まかない”では日本人向けインパネカレーを食べているわけじゃないんですよ。ダルバートとかモモとかオススメです。山菜も発酵物も豊富だし、優しい味わいでスパイスも控えめ。そっちのほうが“本場の味”に近いと思いますよ」

 本格ネパール料理ブームの到来もあるかも!?

プロフィール
室橋裕和(むろはし ひろかず)
週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイ及び周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のジャーナリストとして活動。おもな著書は『ルポ新大久保』(角川文庫)、『エスニック国道354号線』(新潮社)、『日本の異国』(晶文社)など。