■「アンパンマンが浮かんだ」の声も
なぜ、ここに来て視聴率が上昇してきているのか――前出のテレビ誌編集者はこう見る。
「1つは、名俳優で朝ドラ初出演の妻夫木さんが登場したことでしょうね。妻夫木さんが出ることは多くのニュースになり、登場前から話題になっていましたからね。
そして、いよいよ『アンパンマン』の“原点”が描かれてきていることも関係あるかもしれませんね。『アンパンマン』の原点は、作者のやなせさんが悲惨な戦争を通じて得た人生観にある、というのは有名な話。いよいよその価値観が出来ていく“戦争編”が始まり、視聴者が涙を流すような名シーンも出てきています。それで注目する視聴者が増えているのではないでしょうか」
『アンパンマン』の根底には、やなせさんが悲惨な戦争を通じて学んだ「飢えた人に一切れのパンを与えることは、揺るがない絶対的な正義」という哲学が込められている。
6月13日に放送された第12週(16日~20日)予告でも、戦争の激化で飢えに苦しむ隊員たちが「食いもんをよこせぇ!」「腹が減ったなぁ……」などと嘆く姿があった。嵩(北村)がたんぽぽの根をかじっていたり、「みんなで食べたあんぱん、また食べたいなぁ」というセリフもあったりと、“飢えの辛さ”が強調されている。
《次回予告の 「食いもんよこせ」の台詞を聞いたら 自分の顔をあげるアンパンマンが浮かんだ》
《やなせたかしがよく吐露していた空腹、その先にある飢えの壮絶さを、来週から心して見て行きたいと思う》
《史実でも、やなせ先生はたんぽぽの根を食べて飢えをしのいでいたらしいし、かなり史実と近い展開するんだな……》
《赤ちゃんの時から一緒にいるアンパンマンのルーツだからしっかり観たい。そして繰り返さないためにも》
など、『アンパンマン』や、やなせさんの実体験を連想する声は多い。
「“飢えの辛さ”はすでに一度、パン職人の“ヤムおじさん”こと屋村草吉(阿部サダヲ/55)のトラウマという形で、6月2日放送回で描かれていますね」
草吉は以前から「勝とうが負けようが、兵隊は虫けらみたいに死ぬ」「いい奴らから死んでいく」と、まるで実体験かのように戦争を語り、忌み嫌ってきた。2日放送回で、そんな草吉の過去が明らかになったのだ。
草吉は、パン作りを学びたくてカナダに密航した結果、日本人義勇兵として、欧州大戦(第一次世界大戦)に駆り出されてしまう。弾丸が飛び交い、仲間も死んでいく戦場だが、一番つらいのは「腹が減ること」だった。
草吉は空腹で苦しむ極限状態のなか、塹壕で泣きながら、倒れて動けない仲間の懐から奪って食べたビスケットの味が、今もトラウマになっている。だから、それを思い出す乾パンも焼きたくない――という、辛い過去が描かれたのだ。