■川西幸一が今村翔吾に楽曲提供するなら?

 そんな川西氏には「今村先生に曲を提供するならどんなタイトルやイメージ?」という質問が。「翔吾君のテーマってこと? それならヘビーメタルかな。重厚でテンポの遅い曲というイメージじゃないよね」という川西氏に「その曲を講演会の出囃子に使いたい。でも、何も知らずに来たお年寄りとかはビックリするよね(笑)」と今村氏。

 1日19時間執筆することもあるという今村氏に対して「集中するために何かしていることは?」という質問が投げられると「ヘッドフォンをして、音楽を聴きながら書いています。この場面はこの曲と決めて、それをヘビーローテーションする。登場人物ごとにテーマソングのようなものが自分の中で決まっていて、人物が切り替わるたびに曲を変えることもあります」と回答。

「そのプレイリスト、欲しいですね」と司会が反応すると「ただ、聴いたらビックリすると思いますよ。意味不明というか、その人物のイメージとまったく違う曲だったりするので。例えば『羽州ぼろ鳶組』シリーズだったら秘密警察みたいな役割をする日名塚要人というキャラクターがいるんだけど、これは西野カナですからね(笑)。ただ、これはまだ書いていない彼のキャラクターの背景と微妙に関係しているので、読んだあとは納得してもらえるんじゃないかと思う」と意外なエピソードを披露した。

 これに対し、川西氏は「僕は集中するというよりも、締め切り日がだんだん近づいてくると、ヤバいぞヤバいぞと毎日考えて、ホントにヤバくなったら書くタイプ。特に歌詞を書くというのは難しくて、何曲か書かなければいけないとしたら、最初に使った単語はだんだん使えなくなって、選択肢が狭まっていく。そんなときは気分を変えるために海辺に行ったりします」と制作秘話を明かした。

 今村氏からは「以前、一緒に飲んだときに、僕が川西さんに歌詞を提供したら曲を作ってくれるというので、実は暇を見つけて書いているんです。川西さんはどういう感じが好きなんだろうかとリサーチして、英語を混ぜたり。せっかくなので(川西氏がファンだという『羽州ぼろ鳶組』の)火消にまつわる歌詞にしました。炎がどうのこうのといった感じの」と、これからが楽しみな発言に会場は大いに沸いた。

「川西さんは短歌をスマホにメモしているそうですがぜひ披露して」とのリクエストに、川西氏は手元にスマホを用意しながら「紅おしろいはたいて過去を隠しても塗りつぶせぬは心の染みなり」といった作品を高らかに朗読。会場からはほぉーっという感嘆の声があがった。「短歌の組み立て方は作詞するうえで勉強になる」という川西氏の次回作を心から待ちたい。

川西幸一

■無人島に持っていく本とは?

「無人島に1冊だけ本を持っていくとしたら?」という定番の質問には、川西氏は今村氏の直木賞受賞作『塞王の盾』と回答。「何度も読んで、深いところを見つけたい」と言う川西氏に、今村氏は「『塞王の盾』は分厚いから、猛獣が出てきても戦えるし、鍋敷きにもなる(笑)」と笑わせた。

 最後に、今村氏が最新刊の『茜唄(上下)』(角川春樹事務所)をPR。「平家物語の時代の作品です。この時代は“平なんとか”と“源なんとか”と、“なんとか盛”ばっかりで苦手という方がおられると思いますが、大丈夫です。俺も思っていますから、そのあたりを苦労せずに読めるようにと書きました」と紹介した。

 続いて川西氏が「昨年に続き、今日もとっても楽しい90分でした。僕もこの『茜唄』をさっそく読みたいと思います。今夜はWBCよりこっちが先かな(笑)」とあいさつすると「じゃあ僕はWBCを見ます(笑)」と今村氏が返し、大きな笑いと拍手が送られた。「今年はユニコーンのレコーディングがあります。その前に電大のツアーがあって、配信もあるので見てください」と川西氏がうれしい予定を発表してイベントは終了した。

■川西幸一プロフィール
1959年広島県生まれ。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退。バンドは同年9月に解散。その後、J(S)Wのボーカル宮田和弥らと結成した「ジェット機」など、いくつかのバンドを経る。2009年にユニコーンが16年振りに再始動。現在、ユニコーンの手島いさむ、EBIとのスリーピースバンド「電大」のツアー中。

■今村翔吾プロフィール
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て作家デビュー。2016年「狐の城」で第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞受賞。2018年「童神」で第10回角川春樹小説賞受賞。『童の神 』(「童神」改題:角川春樹事務所)で第160回直木賞候補。2020年『八本目の槍』(新潮社)で第41回吉川英治文学新人賞、第8回野村胡堂文学賞受賞。『じんかん』(講談社)で第163回直木賞候補、第11回 山田風太郎賞 受賞。2021年 『羽州ぼろ鳶組シリーズ』(祥伝社)で第6回吉川英治文庫賞受賞。2022年『塞王の楯』(集英社)で第166回直木三十五賞受賞。TBS報道番組(JNN系列)『Nスタ』レギュラーコメンテーター出演中。最新刊は『茜唄(上下)』(角川春樹事務所)。