■もれなく主演級の名優ばかり
そんな清(二宮)だったが、19日放送回では“栄養失調で死にかけている嵩(北村)が、夢のなかで清に励まされる”というシチュエーションで登場。人間は戦争を引き起こすが、同時に美しいものを作ることのできると嵩を激励。嵩が現地民の信頼を得るために作った紙芝居を「みんな喜んでくれてたじゃないか」と褒めて、
「お前は何ひとつ無駄なことはやってはいない。いいか嵩、お前は……父さんのぶんも生きて、みんなが喜べるものを作るんだ。何十年かかったっていい。あきらめずに、作りつづけるんだ」
と、伝え、去っていく――というシーンが、およそ4分半にわたり描かれた。
《父ニノが嵩と家族らしい時間を過ごしたのはわずかなのに、さすがの演技だな…ここでニノを起用してくるとは》
《清パパの丸眼鏡の奥、目に涙がジワジワと溢れてくるのがもう》
などと、SNSは沸騰したのだ。
「また、嵩編に突入する前から、『あんぱん』は全キャストが強烈な印象を残してきましたよね。嵩の伯父・寛役の竹野内豊さん(54)に、母・登美子役の松嶋菜々子さん(51)、朝田家を助けてくれたパン職人・屋村草吉役の阿部サダヲさん(55)など、主演クラスのベテラン俳優陣が多くの泣けるシーンを見せてきました」(前出のテレビ誌編集者)
前述の千尋役の中沢ほか、若いキャストも同様のことが言える。のぶの妹・蘭子役の河合優実(24)は、仕草の1つ1つが色っぽいと話題に。結婚の約束をしていた青年・豪(細田佳央太/23)の戦死の報を受けての後の葬式で泣き崩れ慟哭するシーンは、多くの視聴者の涙を誘った。
「名俳優が多数出演していること、そして、主に嵩編での、彼らの圧巻の演技の数々――。主演である今田さんの演技が悪くなくても、霞んでしまうのは仕方ないところがありますよね……。
戦争が終わったことで、今後は主人公ののぶの出番が増えるとは思われますが、戸田恵子さん(67)や津田健次郎さん(54)といった、やはり実力派のベテラン俳優の出演が控えているだけに、どうなるのか……」(前同)
妻夫木らの名演技、今後の、”主演”の今田に期待することを、朝ドラウォッチャーであるドラマライター・ヤマカワ氏はこう話す。
「第12週は、妻夫木聡さんと二宮和也さんに演技の凄みを見せつけられました。それは、北村匠海さんの“受け”の演技から、脚本以上に嵩の本性を引き出すほど。岩男をリンに銃撃され、やり場のない怒りを爆発させた八木が”おまえはどっちなんだ!”と嵩に問い詰める。このときの妻夫木さんの迫真の演技が、脚本では”……”とだけ書かれていた嵩のセリフを、北村さんに”わかりません……”と泣きながらつぶやかせた。
一方、二宮さん演じる清は、飢餓状態の嵩の意識の中の登場でした。清が人間の愚かさと美しさを説くと、それを聞く嵩の表情が、兵隊ではなく、少年のように見えてきました。この北村さんの表情の演技も、二宮さんの父としての演技が引き出したのでしょう。ともに、凄まじい中園ミホさんの脚本を、俳優が超えてみせたシーンでした。
続く第13週は、終戦を迎えた朝田三姉妹が描かれるようです。第12週は金曜日(第60話)の放送以外、ほぼ不在だった今田さんが、のぶの喪失と再生を演じることで、ヒロインとしての存在感を取り戻してくれるでしょう」
多くの名俳優が出演する『あんぱん』。今後、戦後編では今田の活躍を期待したい。
ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。